裏切りのヒロイン 2部


− セイギ戦隊基地内 −


女性だけで編成された特殊工作部隊。
その部隊長を務めている佐々木香織と妃山早苗は篠山梓に呼び出されて彼女の研究室を訪れていた。
この二人はセイギピンクと同期の隊員でセイギピンクの選考テストで
最後までその座を争ったライバル的存在だった。

「悪くないです。 むしろ我々の特殊スーツより機能的だと思います」
「私もそう感じます。装着性機能性ともに抜群です。 素晴らしいの一言です」

ダークグレーのゼンタイスーツを身に着けた二人が少し頬を赤らめながら壁に備え付けられた
鏡に全身を映して体を動かしていた。

「明後日の夜、二人が着けているそれと、これらを装備して
  あなたたちの部隊が合同で特殊任務に就くことになったのよ」

机の上にゼンタイスーツ以外のアイテムを並べた梓。

「篠山博士、これは…」
「ブラックレディースの戦闘服… ですよね」
「ええ、そうよ。 ここにある全てを着けて任務にあたるのよ」

奥の部屋に通じている扉が開き、ブラックレディース戦闘員の姿をしたセイギピンクが姿をみせた。

「エッ? あなた、ピンク?」

完全にブラックレディース戦闘員と化しているセイギピンクを驚いた表情でみつめる二人。

「黙っていれば、私がセイギピンクだと気づかないでしょう。
  ここにあるのは全てブラックレディース戦闘員たちが身に着けている装備品よ」
「そ、それは解ったけど… どうしてあなたがその姿で…」
「どうしてって 着けていたかったからよ」

ピンクが話をしているとゼンタイスーツを着けた二人がにわかにそわそわしはじめ
その眼は並べられたアイテムと戦闘員姿のピンクを交互に向けらている。

「ピンクの話を聞いてるの!! 佐々木香織、妃山早苗」

いつの間にか戦闘服に着替えを済ませた梓が、そわそわと落ち着きがない二人に声を荒げた。

「は、はい  ですが、どうして、篠山博士まで…」
「私もこれを着けていたかったからよ   あなたたちもこれを全て着けてみたいんでしょう?」

黒いグローブした手で特に落ち着きのない佐々木香織の頬を撫で、その感触を伝えると
その様子をピンクと梓はさり気なく目を合わせて確認し合う。

「そ、それは… 私は命令でこれを…
  ブラックレディース戦闘員に… 戦闘服を着けて…   はい…着けたいです」

香織の言葉に邪な微笑みを浮かべて頷くピンク。

「いいわよ、一度スーツを脱いで下着から着けなさい」
「は、はい… 篠山博士」
「ちょ、ちょっと香織、何言ってるの!
  ピンク、篠山博士、失礼ですが何時もと少し様子が違うように思いますが」

チラチラと完全なブラックレディース戦闘員の姿になってゆく香織を見やりながら
話をする早苗は虚ろな瞳で生唾を飲み込んでいた。

「そんなに気になるなら、あなたも素直に着けたらどう?」

強がっているがその場を動こうともしない早苗の顔を
ピンクは真新しい皮の匂いがするグローブで撫で廻した。

「ほら、香織をみなさい。 とっても気持ちよさそうよ」

嬉しそうに鏡に向かい、自身の顔にメイクを施している香織に目だけを向けた早苗は
抵抗することもなく、ピンクの眼を見つめ直して。

「わ、わたしも… 着けてみて……いいですか」

早苗は媚びるように虚ろな瞳で言葉を口にした。
ピンクは香織の時と同じように邪な微笑みを浮かべて頷いた。



「あなたたちの他に7名分のスーツセットがある
  明日の夜までに、これを着けさせる優秀な女性隊員を選んでここに連れて来なさい」

着替えを済ませて鏡の前でうっとりと自分の姿に見惚れている二人に命令口調で話すピンク。
二人は並んで立っているピンクと梓に向き直ると、落ち着きを取り戻した口調で応えた。

「はい この素晴らしい戦闘服が似合う有能な女性隊員を選抜致します」
「はい 後ほど待機任務になっている私の部隊の者を連れて参ります」
「期待しているわ。 ここを出るときはそのスーツは必ず脱ぎなさい。
  それと、今回の任務がこれを着ける者だけで行われる極秘任務であること忘れないで」
「はい 了解しました」

脇を締め右手を額の横に斜めに添えるセイギ戦隊の敬礼の姿勢をとった二人。
ピンクと梓も同じ姿勢で応えていると、早苗が思惑通りの言葉を口にした。

「もうしばらく… もうしばらく、この姿のままで居ても宜しいでしょうか…」

ピンクと梓が顔を見合わせて無言で頷いた。



− 某所 −


「ミサキ様 手筈は調いました。 戦闘服を着けた隊員たちも口には出していませんが…」

自信に満ちた笑みをこぼすセイギピンク。

「ご苦労でした BL0231」

パトロールの途中、セイギピンクは近衛戦闘員ミサキのもとを訪れ、作戦の進捗状況を報告していた。

「期待どおりの働き、さすがですね。 沙織様より貴女を私の部下にする許可を頂きました。
  戦闘員BL0231 今から貴女は近衛戦闘員として、私の部下として働いてもらいます」
「わっ、わたしが… 近衛戦闘員…ですか」
「私の部下では不服ですか」
「ホィー! ありがたき幸せにございます。 さらなる忠節をここに…」
「期待していますよ BL0231」

戦闘員BL0231の着けているマスクが上級戦闘員のモノに取り替えられ
近衛戦闘員の証とも言える小マントが与えられた。

「BL0231 セイギ戦隊を壊滅するのではなく、ブラックレディースが支配下におくことになりました。
  女性隊員は戦闘員として、それ以外の者たちは奴隷として働かせるのです」

椅子に腰掛けるミサキの左右に控えていた近衛戦闘員が前に出て黒いハードケースを開く。
一方のケースの中には黒十字が刻まれたピアスと指輪が数セット
もう一方には自動小銃の弾装とニードル銃が詰め込まれていた。

「セイギ基地に戻り、戦闘服を着けた隊員たちにこれを付けてあげなさい。
  くだらない使命感から開放され、自分の気持ちに素直になるでしょう」
「ホィー!!」
「貴女はブラックレディース戦闘員となった隊員を指揮して、セイギ戦隊基地を掌握するのです。
  征圧用の装備として、麻酔弾と精神操作針を用意しておきました」
「ホィー!!」
「もし、作戦遂行が困難と判断されたときは……」

ミサキは耳につけているピアスに触れ、そこに仕込まれている爆弾を使い自爆するよう示唆していた。

「ホィー!! ご期待を裏切らない働きを誓います」

ミサキの前でBL0231は気を付けの姿勢から指先までを綺麗に伸ばした右腕を斜め上に掲げた。



− セイギ戦隊基地内 −


夜、勤務を終えた隊員たちが篠山梓の研究室に集合している。
制服姿のまま、並んで待っている隊員たちは、そわそわとどこか落ち着きがなく
戦闘服が保管されている部屋の入り口に視線が集中していた。

「揃っているようね、そこの扉をロックして全員なかに入りなさい」

ようやく扉が開き、ブラックレディース戦闘服を着けた梓が姿を見せた。
その耳と指には黒十字が刻まれたピアスと指輪が輝いているが
誰一人、梓に疑問を抱くこともなく、素直に指示に従い行動すると
隊員たちはテーブルに並べられたブラックレディース戦闘服の前に立ち
部屋の奥で腰に手を当て立っているブラックレディース近衛戦闘員姿のピンクのほうを向いた。

「まずは戦闘服に着替えなさい」
「ハイ」

隊員たちはセイギ戦隊の敬礼の姿勢で答えると、制服を脱ぎ捨て
目の前に並べられた漆黒の戦闘服に着替え始めた。
無言で着替えをする隊員たちのなかには、その心地よさに微笑んでいる者もいる。
そして、着替えとメイクを済ませた隊員たちは、しばらく自分の体を撫で回したり
軽く体を動かして、その装着感に酔いしれていた。


「あの美しい方のためになら…」

いつの間にかピンクの後ろの壁には総帥沙織の肖像が掲げられており
それに気付いた佐々木香織がうっとりとその肖像に見惚れ、呟くように言葉を漏らした。
その言葉を聞いていた他の隊員たちも、香織の視線の先にある肖像に眼をやり同じように声をあげる。

「わたしもあの方のために…」

その反応を誇らしげに見ていたピンクが
ピアスと指輪が入ったケースをテーブルの上にひろげて

「あとはこれは付けれるだけだけど」
「ハイ、特殊任務に必要なものであれば、どのようなものでも身に付けます。
  姿だけではなく、心もブラックレディース戦闘員としてあるべきだとわたしは考えていました」

妃山早苗がピンクの前に歩み出て、セイギ戦隊の敬礼の姿勢で答えると
隊員たちは佐々木、妃山の両隊長を先頭に2列に整列して同じ姿勢で並び立っていた。

「お願いします。 我々にピアスとリングをお与え下さい。
  この戦闘服を身に付けたときから、わたしは… わたしたちは…」

佐々木香織が指先まで真っ直ぐに伸ばした右手を斜め上にあげて
これまでとは異なる敬礼の姿勢をみせると、全員が同じ敬礼の姿勢をとった。
微動だにせず、総帥沙織の肖像に向かい敬礼する姿にピンクは微笑み

「それは身も心もブラックレディース戦闘員として働きたい、そういうことなのね」
「ハ……」
「「ホィー!」」

返事を返そうとした香織が言葉をのみ込むと
九名の隊員たちが示し合わせたように同時に奇声を発した。
黒い戦闘服は、悪を憎みそれを倒すことが使命と信じ戦ってきた隊員たちの心を
その姿と同じ闇色に変えてしまった。

「いいわ 佐々木香織、今から貴女はブラックレディース戦闘員BL0345 これを授けます」
「ホィー」

ケースから黒十字が刻まれたピアスを取り上げ、香織の耳に付けられていたピアスと付け替えて
同じデザインの指輪を右手の指にはめさせた。

「妃山早苗、貴女はブラックレディース戦闘員BL0346」
「ホィー!」

名前を呼ばれ、次々と敵だった者たちと同じ姿に変わってゆくセイギ隊員たち。
ピアスと指輪を与えられた者たちは、先にブラックレディース戦闘員BL0344となった
篠山梓が準備したテーブルの上の自動小銃とニードル銃の前に並び
気をつけの姿勢で近衛戦闘員BL0231の命令を待つ。
その顔は戦闘服の装着感に酔いしれ、惚けていた時とは一転して凛々しくなり
眼差しも、セイギ隊員のときよりも鋭く輝いていた。


「我々の任務はセイギ戦隊基地を掌握し、ブラックレディースの支配下に治めること。
  まもなく、この基地は夜間シフトに移行される。 その機に乗じ
   まずは基地内で活動している隊員を、そのあとで仮眠中の隊員を襲う」
「「ホィー!」」
「その小銃には麻酔弾が装填されている。
  それで隊員を眠らせて、精神操作針をニードル銃で打ち込み
   ブラックレディースの奴隷として働かせる」
「「ホィー!」」

右手を掲げる敬礼の姿勢をとったあと、隊員たちは目の前に置かれた装備を点検し
ニードル銃を太ももに着けたホルスターに収め、麻酔弾が装填された自動小銃を
胸の位置で両手でしっかりと持ち、上官である近衛戦闘員BL0231の命令を待った。

「時間ね、戦闘員BL0344、BL0352、BL0353の三名は司令室を占拠。
  わたしと他の者で最大の敵セイギマンを襲い、そのあと――」
「「ホィー!」」
「もし、任務の失敗、他の者を危険に晒す状態に陥ったときは、速やかにピアスを外すのよ」
「「ホィー!!」」


数時間後、セイギ戦隊基地指令室の壁にはブラックレディース総帥沙織の肖像が掲げられ
近衛戦闘員BL0231が総帥沙織と近衛戦闘員ミサキに任務完了を報告する映像に
ブラックレディースの傀儡となったセイギ戦隊司令官とセイギマンが右手を掲げる
敬礼の姿勢をとっている姿が映し出されていた。


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