エデン 4

「おはよう 美和子  エマージェンシーなかったようね」
「はい、おはようございます チーフ」

朝、和美は普段と変わらない様子で事務所に姿をあらわした。

「奈々はちゃんと学校に行った? 友華は?」
「友華は奈々を学校に送ってから来ると連絡がありました」
「そう  これから出掛けるけど、美和子 私と一緒に来てくれる」
「は、はい 構いませんが…」
「どうかした?」
「い、いえ なにも…」

首に着けたチョーカーのベルを指ではじきながら微笑む和美。
美和子は普段飾り気のない和美がアクセサリーを
首輪としか思えない金属製のチョーカーを着けていることが気になっていた。

「? らしくないわね。
  昼過ぎには戻れると思うから友華に事務所で待機しておくよう連絡しておいて」
「はい  どこに行くか知らせなくいいですか」
「そうね… 直ぐに戻るから伝えなくていいわ」
「…了解です」



ウォーターフロントに建てられた高層マンション。

「チーフ ここに何が…」

事務所を出てから一言も喋らなくなった和美にマンションを見上げながら美和子が声をかけた。
だが、その質問に答えようともせず、エレベーターに乗り込むと和美は最上階のボタンを押した。

「チーフ、確かこのマンションはまだ…」
「ビーナスフォースは新しい組織に編入されることになったわ」
「エッ、新しい組織に? それはどう言う… だったら私だけじゃなくて友華と奈々も…」
「いいのよ 一人ずつ確実に。  それがご主人様のご命令だから」
「ご、ご主人様?」
「そう 美和子もイヴ様の忠実なシモベに生まれ変わるのよ」

背を向けて立っていた和美が振り返り、妖しく微笑むと
エレベーター内に獣人特有の臭気が充満し、和美の姿がネコ獣人へと変貌した。

「エデンの獣人!! どうしてチーフが」

最上階に到着したエレベーターの扉が開くと、美和子はフロアに飛び出して
事務所で待機しているVU山崎友華にエマージェンシー信号を発信しようとした。

「ムダよ美和子 ここはすべての通信や信号を遮断している」

美和子が飛び出したフロアは薄暗く、異様な空気と匂いで満たされていた。

「ここは貴女たちのために用意されたイヴ様のラボ。
  そして、貴女の後ろにいらっしゃるのが、私たちのあるじ イヴ様」

和美の言葉で振り向いた美和子の視線の先に足を組んで座っているイヴの姿があった。
そして、いつの間に移動したのか和美はその足元にひれふしイヴのブーツを舐めていた。

「イヴの言うとおり、ちゃんと連れて来ましたね。 カズミはいいメードです」
「ありがとうございます。イヴ様  あれがVI高杉美和子です」

喉の下を撫でられ気持ちよさそうに目を細める和美。
尊敬していた和美の変わり果てた姿を目にした美和子は呆然とたたずんでいた。

「チーフがエデンの獣人に… 私たちを裏切るなんて……
  ううん、そんなはずはない。 これはエデンの策略、あれは偽者!!
   イヴって言ったわね、チーフを…カハッ」
「ダメよ、美和子  イヴ様を呼び捨てにするなんて」

イヴの前に傅いていた和美が俊敏な動きで美和子の前に移動し
硬く握り締めた拳を美和子の腹部に打ち込んでいた。

「私は雪谷和美 ヴィーナスフォースの隊長よ」
「ほんとに…チーフ…なんですか… だったら…どうして…」

美和子は次第に霞んでゆく眼で、獣人と化した和美の顔を見つめた。

「そして、イヴ様の忠実なメード」
「メー…ド…」

和美が言った最後の言葉を口にして美和子の意識は途絶えてしまった。

「ホントにこれがヴィーナスフォースですか?  簡単に捕獲できちゃいました」

和美に抱きかかえられ運ばれてきた美和子をイヴが嬉しそうに眺めていた。

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