エデン 5

電子機器で埋めつくされた壁。
その一角に磔られるように高杉美和子は拘束されていた。

「タチバナ こいつを獣人にすると力を失うって言ってましたが
  どうやってこいつをイヴのモノにするのです?」

腕を組んでじっと美和子を見つめていたイヴがタチバナに視線を移す。

『ハイ イヴサマ コノフォースエンジンヲ ツカイ
  チカラヲモツモノ ノウリョクシャヲ サガシ トラエ サマザマナジッケンヲ オコナイマシタ』

タチバナが爪の先でつまんでいるメダル状の物体を美和子に近づけるとそれは青く発光する。

『コレハ イヴサマノタメニ ハタラク フォースヨウニ イソギ ヨウイシタ フォースエンジンデス』

タチバナはネットワーク網からフォースエンジンの機密情報を盗み出すと
短期間でエデンの技術を組み込んだ新しいフォースエンジンを開発し
そのエンジンで力を持つ人間を探し、捕獲して生体実験を行っていた。

「ヘェ〜 イヴに黙ってそんな楽しそうなことをしていましたか
  悔しいからあとでお仕置きします   それで?」
『ノウリョクシャヲ ジュウジンニカイゾウスルト ソノチカラハ ウシナワレマシタ   デスガ』

意識を失い拘束されている美和子の頭に巨大なヘルメットを被せると
つまみ持っていたフォースエンジンをヘルメットの額の位置に取り付けた。

『ノウリョクシャハ フォースエンジンヲ ジザイニアヤツリ ソノパワーヲヒキダシマス
  ナラバ ソノギャクノ コウカヲ エラレナイモノカト ワタシハ カンガエ
   コノフォースエンジンヲ カイハツイタシマシタ』
「逆の効果? どういうことです?」

タチバナは制御パネルを操作しながら話を続ける。

『コノフォースエンジンハ ロイヤルフォースカラ ヌスミダシタ ジョウホウヲ モトニ
  エデンノテクノロジーヲ クミコミ カイリョウヲ クワエタ フォースエンジン デス
   キホンテキニハ ロイヤルフォースノモノト オナジデスガ
    コノフォースエンジンニハ カンショウシタ ノウリョクシャヲ
     シハイカニオク キノウヲ クミコミマシタ ソシテ シハイカニオカレタ
      ノウリョクシャハ エデンヘノ チュウセイシンヲ ウエツケラレマス』

頷きながら目を輝かせタチバナの話を聞くイヴ。

『ニンゲントシテノ キオク イシキ カンジョウヲ ノコシタママ
  ノウリョクシャハ エデンノヘイシ トシテ ハタラクヨウニナリマス
   ソシテ イチド エンジンノ シハイカニオカレタ ノウリョクシャハ
    シヌマデ ソノシハイカラ ノガレルコトハ デキマセン』

タチバナが話を続けていると美和子に取り付けられたエンジンの輝きが増し
周囲の壁が極彩色に輝きはじめた。

「ウッ… ウゥゥ…  ここは…」

動き出した電子機器の微かな振動で美和子は意識を取り戻した。

「やっと目を覚ましましたか」
「あなたは イヴ!!  チーフ、チーフは!!  この拘束を外しなさい!!」

体の自由を奪っている拘束を解こうと美和子は体を捩る。

「カズミはヴィーナスなんとかの基地に帰しました。
  それと そこから逃げることはできませんから、しばらく大人しくしてなさい」
「よくもチーフを獣人なんかに…  私も獣人に改造するつもりね、そんなこと…」

美和子はさらに激しく体を捩り、拘束から逃れようと抵抗する。

「だから ムダだって言ってます。  それにお前は獣人にしないです」

意識を取り戻してからずっと感じている頭を絞めつけるような圧迫感と
イヴの陰湿な微笑みに美和子は言い知れない恐怖を感じた。

「私を獣人にしない? いったい何を… 私をどうしようと」
「ムフフフフ… お前はイヴの言うことなら何でも聞くようになるの  そうよね、タチバナ」
『ハイ イヴサマ』
「なんて酷いことを… 獣人だけじゃなく、人をそんな姿に改造して働かせているなんて…
  エデン、絶対に許さない!!」

ブレインカプセルにされたタチバナの姿を見た美和子は怒り、それまで以上に体を捩り抵抗すると
取り付けられたエンジンの輝きも増し、壁の極彩色も明るさを増した。

「ウッウゥゥゥ… な、なに… 頭が…」
「イヴサマ コノオンナノ イシキヘノ ドウチョウガ カンリョウシマシタ』
「意識への同調が完了?  それはどういう…  ウッ… ウアァァ…」

美和子の目が限界まで見開かれ、苦悶の声を漏らす。

「な、なにを… してる…  グワァァァァァァァァァ」
「ウフフフフ… いい声…   で、タチバナ いまは何をしているの?」
『ハイ イヴサマ フォースエンジンガ
  コノオンナニ エデンヘノチュウセイシンヲ ウエツケル ジュンビヲシテイマス』
「わ、わたしを… エデンの兵士に…  い、いま… フォースエンジンって…  クアアアアアアア…」
「ウフフ… そうよ エデンで作られたフォースエンジン。
  これからお前を支配してエデンの、イヴの忠実なしもべにしてくれます」
「アッアアアアアア…… ど、どうして… エデンがフォースエンジンを…
  どうして… フォースエンジンが… わたしを… キィィィィィィィ…」
「お前たちの仲間だった このタチバナが…… あれ?」
「ウ…アア…アアア…ウア…アアアア…」

抵抗していた美和子は白目を剥き、口の端から泡と涎を垂らし、ピクンピクンと体を痙攣させていた。

『エンジンノ シハイカニ ハイッタヨウデス
  コレカラ コノオンナニ エデンヘノチュウセイシンヲ ウエツケマス』
「もう少し 鳴き声を聴いていたかったですけど…」

少し残念そうに微笑むイヴの瞳は冷たく輝いていた。


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