エデン 7

黒のレザースーツに金属製のチョーカーを付けた和美を
チラチラ横目で見ていたVU山崎友華が美和子の話を切り出した。

「チーフ もう5日ですね 美和子さんはどこの施設で調整されているのですか
  美和子さんに連絡しても携帯繋がらないみたいで、奈々ちゃんも心配していました」
「心配ないわ 新しいフォーススーツの調整に少し時間がかかっていると連絡があったから」
「美和子さんから連絡があったんですか?」
「ええ、昨日の夜 彼女からね」

― 昨日の夜? 私も奈々ちゃんもずっと連絡していたのに
  それにチーフ 奈々ちゃんもずっと言ってるけど、どこか違う 別人のような感じが… ―

友華がコーヒーカップをじっと見つめ思案していると
和美の携帯に着信があったが、友華はそれに気付かなかった。

『かしこまりました すぐにVUとそちらに はい、失礼いたします』
「友華 出掛けるわよ    友華!」
「えっ!?」
「なにぼっとしてるの、出掛けるわよ。 美和子の調整が完了したわ、次は貴女よ」
「は、はい」

二つ折りの携帯を閉じバックに直す和美の姿を何気に見やりながら友華も出掛ける準備をしていた。

― 美和子さんの調整やっと終わったんだ…… 携帯に指令? どうして専用通信じゃなくて携帯に ―

ロイヤルフォースの指令は専用の通信機で伝えられる。
考え事をしていた友華は和美が携帯で指令を受けているところを見た訳ではなかったが
専用通信機の呼び出しが鳴れば、考え事をしていた友華でも気付かない訳がない。

「チーフ いまの指令…」

友華がそのことを和美に確認しようしたとき、扉をノックし訪問者が顔を覗かせた。

「すみません 高杉美和子さん、いらっしゃいますか?」
「あ、あなた、瀬戸沙耶香さん」

扉の隙間から顔だけを覗き込ませたのはガイアフォースGV瀬戸沙耶香だった。

「昨日、美和子さんと会う約束をしていたんですけど、いらっしゃらなかったので」
「貴女 亜沙美の隊の娘よね」

和美が沙耶香を冷たく見やり近づくと

「おう? 沙耶ッチどうした? まさか、やっとヴィーナスに来る気になったっすか?」

沙耶香の背中を押し、なだれ込むように同じ制服を着た奈々と沙耶香が事務所の中に入って来た。

「あ、いや、ちがう、ちがうの、美和子さんと昨日会う約束してたんだけど会えなくて
  携帯も繋がらないから、どうしたのかなぁって…」
「それはムリ〜 美和子はいま」
「奈々」

冷たい視線と声が奈々を射抜く。

「うっ にゃむにゃ…」
「? なに? 奈々ちゃん、美和子さんどうかしたの?」
「各隊に与えられた指令を部外者に教えることはできない。
  貴女もフォースなら知っているわよね。  悪いけど出直して貰えるかしら?」
「チーフ 沙耶ッチはいつかヴィーナスの一員になる部外者じゃないっす!!」
「でも、いまはガイア、ヴィーナスじゃないでしょう」
「でも沙耶ッチは美和子がずっと!!」
「奈々ちゃん 雪谷隊長の言うとおりだよ
  わたしはガイア、ヴィーナスに移る気持ちはないよ  雪谷隊長、すみませんでした」
「奈々ちゃんもね、これは規則だから仕方ないことなのよ」
「わかってるっす!!」

膨れた顔で和美を睨む奈々を友華がなだめ

「奈々ちゃんもわかってくれてるみたいですから、二人でお茶くらいはいいですよね チーフ」
「好きになさい 先に車に行ってるわよ」
「はい、わたしもすぐに行きます」

和美は冷たくそう言い残すと足早に事務所を出て行った。

「雪谷隊長って厳しいですね」
「違う違う、5日くらい前からチーフ ちょっと様子がおかしっす」
「5日前?」
「それじゃ 奈々ちゃん、ちょっと出掛けてくるからあとの事よろしく」
「友華 どこ行くの?」
「美和子さんが終わったみたい。 で次はわたし」
「そうっすか 友華、ちゃんとあっしに連絡するっすよ」
「はいはい」

笑いながら事務所を出てゆく友華を奈々と沙耶香は手を振り見送った。

しばらく沙耶香と話をしていた奈々がトイレで席を立ち
戻ってくると沙耶香が少し浮かない表情でテーブルの一点をじっと見つめていた。

― 雪谷隊長の様子がおかしいって感じている奈々ちゃんになら… ―

「どうかしたっすか? 沙耶ッチ」
「う、うん 奈々ちゃんさっき…」
「どうかしたっす?」
「雪谷隊長に怒られたとこだけど…」
「話してよ、気になる」
「実はいまガイアはある事について調査しているの」
「それって規則違反っすね いいっすか?」
「うん 5日前、ロイヤルフォースのシステムがハッキングされて
  フォースエンジンに関する情報が盗まれたらしいの」
「へぇ〜 そんなことが……ん? 5日前?」
「その少し前だけど、フォースエンジンとスーツの開発に携っていた
  科学者の一人が出席していた学会がエデンに襲われ、出席者全員がエデンにさらわれているの」
「エンジンとスーツを開発していた科学者がエデンに……っすか」
「うん その科学者は雪谷隊長とも面識があって?  奈々ちゃん どうしたの?」

沙耶香の話を聞いていた奈々が慌しくパソコンの前に移動すると
画面に地図を映し出し、GPSで友華の居場所を探索しはじめた。

「さっきチーフに怒られて話せなかったこと」
「うん 聞いてもいいの?」
「いま美和子は新しいフォーススーツの調整を受けてるってチーフが
  それにさっき、次ぎは友華の番だって 美和子の調整は完了したって」
「新しいフォーススーツ?」
「うん そう言って美和子をどこかに連れて行った日から
  チーフがチーフでないような感じがしてたっす… 居た!!」
「ウォーターフロントに向かってるみたいね
  あそこって建設途中のマンションしかないハズだよね」
「沙耶ッチ、あっしの考えすぎと思うけど、もし、もしもの話っすけど…」
「行ってみよう  チームは違うけどわたしたちは仲間っスよ」

珍しく真剣な顔をしている奈々に沙耶香が笑顔で答えた。


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