エデン 8

「み、美和子さん…やめて下さい… どうして…」

ボロボロに破損した白いフォーススーツに身を包んだ友華が
傷ついた腕を押さえ壁にもたれかかる。

「もういいです。 ステンノ、そいつを捕獲しなさい」
「かしこまりました イヴ様」

黒と紫で彩られたフォーススーツを纏った美和子がゆっくりと前へ進む。

「チーフは獣人に改造され… 美和子さんはエデンに何をされたの!!」

友華は傷ついた利き腕を反対の手で支え、不敵な笑みを浮かべ近づいてくる美和子に銃口を向けた。

「仲間のわたしを撃つ事なんて、友華には出来ないでしょう」

目の前でエデンのしもべに変貌した和美と美和子の姿を見た友華が戦えるわけもなく
震えて狙いの定まらない銃は美和子に奪われ、その銃口が友華の腹部に向けられると衝撃が走り
纏っていたフォーススーツが白い光の粒子となって消滅した。

「ゲフッ… 美和子…さん……な…ぜ…」
「友華 すぐにまた一緒に戦えるようになるわ」

崩れ落ちる友華を肩に担ぎ、美和子は和美に奉仕させて悶えているイヴの前に戻った。

「イヴ様 V2山崎友華を捕獲致しました」



その少し前、奈々と沙耶香はウォーターフロントに到着し
友華の反応が消えた場所に辿り着いていた。

「駐車場にチーフの車が止めてあるっすな」
「ここに間違いないみたい」
「とりあえず あっしはスーツを装着するっす。 沙耶ッチは?」

沙耶香は腕に嵌めた装着ユニットをしばらく見つめてから

「緊急信号でみんなが来ちゃうから、もう少し調べてからにする」
「だな あっしらの勘違いかもしれないし
  とりあえず… エレベーターが使えるみたいっす」
「それじゃ 上から調べましょう」

二人はエレベーターに乗り込み最上階のボタンを押した。



最上階 イヴのラボではタチバナが友華を壁の拘束台に固定し
エデンのしもべに改造する準備をはじめていた。
その隣にソファーに寝そべり和美に奉仕させているイヴと
フォーススーツを解除し、イヴに与えられたレザーTシャツ、レザーロングパンツにブーツ
手首までのレザーグローブを着けた美和子がイヴの傍らに膝をつき控えていた。

「クイィィィィン  カズミいいです、もっと激しく動かすですぅぅ」
「ハイ イヴ様  熱い… 溶けそうに熱いイヴ様の中にわたくしの!?」

奉仕していた和美が言葉を止め、耳をピンと立ててエレベーターの方を見やり白い瞳を細めた。

「イヴ様 侵入者のようです」

和美の言葉を聞いた美和子は立ち上がり、イヴをかばうように前に立っていた。

「ウフフフ… 頼もしいしもべたちです」



最上階に到着したエレベーターの扉が開き、目の前に広がる闇に
白で統一されたフォーススーツに身を包んだ奈々と制服姿の沙耶香が足を踏み入れた。

「この匂い…」
「沙耶ッチ スーツ装着した方がいいみたいっすね」
「ええ  予感、当たったみたいね」

沙耶香が手首の装着ユニットに触れると体が白と黄色の光の粒子に包まれ
白と黄色で彩られたフォーススーツが装着された。

「亜沙美さんたちが到着するまで慎重に行きましょう VV」
「了解っすぅ?  あれ…美和子? 美和子無事だっ…ンン??  友華!!」

ゆっくりと二人のほうに歩いてくる美和子。
その奥の壁には磔にされ、力なく頭を垂れている友華に六本の腕を持つ
怪しい影が巨大なヘルメットを被せ、侵入者を気にもせず作業を続けていた。

「美和子、あいつは友華に何をしてるっす!
  それにこの妖しい雰囲気、ここはエデンの…… 美和子?」
「美和子さん…ですよね」

美和子が顔がはっきり見える距離まで近づくと、その顔を見た奈々と沙耶香は言葉を失い
危険を察知した二人の体は戦闘態勢に入っていた。

「誰かと思えばGV 沙耶香もいっしょだったのね」

イヴのメイクを施され別人のような美和子が優しく微笑んでみせるが
二人はゆっくりと間合いをはかり距離をとる。

「どうしたんですか 美和子さん。 友華さんは何をされて… 雪谷隊長は?」
「美和子 おでこのそれなに?  お前、ホントに美和子っすか?」
「ウフフフ…」

美和子が目を細めて妖しく微笑むと奈々と沙耶香の目の前を黒い影が横切り
次の瞬間、二人は背中から床に倒れていた。

「な、なに…」
「イタタ…」

上体を起こした沙耶香は美和子の横に現れた四つん這いの黒い影に視線を向ける。

「うそ…ですよね…」
「どうしたっす GV  いまのなんっすか」
「違う隊の者同士で行動して、二人とも規則違反よ」
「エエッ!? 今の声…チーフ?」

奈々も四つん這いの黒い影に視線を向けた。

「チ、チーフが獣人に…… 違う違う別人っすよね」

動揺している二人の前から四つん這いの影が音も無く消え
耳元で囁くように和美の声が聞こえてきた。

「私は雪谷和美 イヴ様の忠実なメード」

和美は二人のヘルメットをペロリと舐めた。

「チ、チーフ イヴって誰っす… メードってなに…」
「イヴ様はわたしたちのあるじ わたしはイヴ様のペットにして頂いたの」

隣に居たはずの和美はいつの間にか美和子の隣に戻り、奈々の質問に答えていた。

― いつのまに…気配をまったく感じとれない… それよりも
  ホントに雪谷隊長が獣人に改造されたのであれば、美和子さんもエデンの獣人に… ―

「美和子 そっちの黄色いのは何?」
「はい イヴ様  ガイアフォースGV瀬戸沙耶香です」

どこからか聞こえてきた声に従順に答える美和子。
奈々と沙耶香はその声の主を探し周囲を見渡す。

「いまのがイヴっすか、どこだ!!
  出てきてあっしと勝負しろ!! ナッ! イテェェ」

声を荒げた奈々の体が数メートル後ろに飛ばされ
残された沙耶香の隣には床の上で転げ回っている奈々を冷たく見つめる美和子の姿があった。

「奈々 仲間と言えども、イヴ様への暴言は許しません」
「仲間ってんなら、蹴るな!!
  それにあっしにはエデンを様付けで呼んだりする仲間はいないっす!!」

反動を付けて飛び起きた奈々は気合を入れ直し美和子に向かう。

「その猿ならスーツのテストに協力してくれそうです。
  美和子 フォーススーツを装着し、本気でそいつと戦いなさい」
「ハッ かしこまりました イヴ様」

― フォーススーツを装着? ってことは
  美和子さんは獣人にされてない? エデンに操られているだけなのかも ―

美和子が手首に装着されている青く妖しく輝いているフォースエンジンを胸の前にかざすと
フォースエンジンは紫と黒の粒子で美和子の体を包み込みゴーゴンフォース、ステンノの姿に変えた。

― エッ!? あ、あれがフォーススーツ? ―

「美和子、それが新しいフォーススーツ?
  すっごくエッチな格好っすよ 恥ずかしくないっす?  それで戦えるっすか!!」
「VV 美和子さんはエデンに操られているだけかもウグッ…」
「邪魔をしないでもらえるかしら GV」

油断していた沙耶香の首に和美の黒い毛の生えたしなやかな腕が巻きつき
頚動脈とノドを絞めつけていた。

「カハッ… ゆ、雪谷…隊長…」
「沙耶ッチ!!」

沙耶香の救出に向かおうとした奈々を美和子の回し蹴りが襲う。
が、奈々はその攻撃を爆天で難なくかわした。

「いまの蹴り、本気であっしを仕留めようとしてたっすね」
「さすが奈々 あなたのスピードと攻撃に対する反応には、一目置いていたけど…」

ダッシュで距離をつめた美和子が連続攻撃を繰り出す。

「美和子があっしを褒めてくれるなんて エッ…」

余裕で美和子の攻撃をかわしたつもりだったが
パンチは奈々のボディを捉え、顎を美和子の膝が蹴り上げていた。

「クハッ…… なぜ…あっしはかわしたはず…」

膝を落とした奈々が詰った呼吸とグラつく頭を回復しようと苦しそうに息をする。

「イヴ様に頂いたこのフォーススーツを装着していると奈々がカメみたいに…」
「カメっすか…言ってくれる…  ちょっと油断しただけっすよ」
「そうなの? 奈々  それじゃ遠慮なくやらせてもらうわ!!」

よろけながら立ち上がった奈々に美和子の容赦ない攻撃が再開される。

「だめ… VV… 逃げて… GTたちが来るまでングゥ…」
「クス… GV それは無いと思うわ
  あなたがスーツを装着したときの緊急信号は亜沙美たちに届いていないのよ」
「そ、そんなハズは…」
「亜佐美から何か言ってきた? クスクス…
  ここに入る前にスーツを装着すべきだったわね
   ハイ イヴ様 かしこまりました」

沙耶香の耳には届かなかったが
イヴの命令に答えた和美は腕の力を強め、GV瀬戸沙耶香を絞め落とす。

「グッ…ウグゥゥゥ… い、息が…  やめて…くださ…い…」



「ゲホッ…ゴホッ…… イツツゥ…」
「どうしたのもう終わり? 三分も経ってないけど」
「かもね… 美和子にここまでボコボコにされるとは思ってなかった」

スーツと体力の限界を感じた奈々は友華と同じように銃口を美和子に向けた。

「撃てるの? 友華も同じようにわたしに銃口を向けたけど」
「美和子 お前、友華もやったっすか」
「このスーツの性能テストに付き合ってもらっただけよ。
  ほとんど抵抗しなかったから、あまり意味はなかったけど…」

話しながら近づいてくる美和子の足元に奈々が威嚇の一撃をはなつ。

「友華は撃たなかったと思うけど、あっしは撃つよ。
  友華と沙耶ッチ、美和子、お前を助けなきゃいけないから。
   チーフは… 獣人にされたチーフは助けることが出来ないけど…」
「冷たいのね 隊長の私を見捨てるなんて冷たいんじゃないの 奈々」
「チー!? 沙耶ッチ!!」

美和子の隣に現れた和美は意識を失いフォーススーツが
消滅した沙耶香をお姫様だっこしていた。

「殺してないわ、ちょっと大人しくしてもらっただけ」
「チーフ! 沙耶ッチを下におろすッス でないと!!」

奈々は軽々と沙耶香を抱き抱えている和美と
冷たい笑みを口元に浮かべ立っている美和子に交互に銃口を向けた。

「っキショォ… どうしたらいいのか判らないっす」
「簡単なことです 大人しくお前もイヴのモノになればいいだけです」

和美の後ろからようやく姿を見せたイヴが沙耶香を見定めるように眺める。

「ふざけるな!! おまえが、おまえがイヴっすか!!」

揺れ動いていた銃口がイヴに定められると、奈々の指は躊躇することなく引き金を引いた。

「イ、イヴ様!!」
「キャウ!」

美和子がイヴを庇い、銃口の前に立ちはだかり自分の体で
放たれる銃弾を受け止めたが、最初の一発は防ぎ切れずイヴをかすめた。

「クゥッ… 止めなさい、奈々!!」
「うっ… うぅぅ…… ステンノ!! しっかりイヴを守りなさい
  アッ!! アァァァァ…イヴのキレイな髪の毛が焦げてしまってます…」
「も、申し訳ございません イヴ様  すぐにVVを捕獲しイヴ様の御前に…」
「必要ありません!! あの猿を始末しなさい!!!」
「!? イ、イヴ様いま…」
「あれは要らないって言っています!!
  ヴィーナスなんとか全員をイヴのモノにするつもりでしたが
   あれの代わりにこっちのガイアなんとかをイヴのモノにします!!
    イヴを傷つけたあの猿は生かしておきません!!
     ステンノ!! さっさとあの猿を始末しなさい!!!!」
「で、ですが奈々は… ア…アァ…」

イヴの命令に戸惑いを見せたステンノのヘルメットの金色の瞳が輝く

「ハッ イヴ様のご命令のままに」

銃弾を体で受け止めながら美和子が足を踏み出し奈々に向かって歩き出した。

「奈々 イヴ様のご命令です。 お前を処分します」
「美和子邪魔っす!! 美和子はそいつに操られてるっすよ!!」

美和子が体で受け止めていた弾丸は跳弾し床や天井、壁を焦がし
その内の数発は友華が磔にされている壁や天井に命中し小規模な爆発が起きた。

『イヴサマ ソウチニイジョウガ ハッセイシマシタ セイギョ デキマセン ココハ キケンデス』

手際よく友華を移送用のカプセルに移し変え、脱出艇に運び込んだタチバナが
和美に抱かれている沙耶香を受け取りカプセルに押し込むとイヴに脱出を促す。

『イヴサマ スグニ ダッシュツヲ アノオンナハ ワタシガ ショブンシマス』

「フン! 仕方ないです タチバナ、ちゃんとあの猿を捕まえて処分するですよ
  ステンノ、カズミ、イヴの楯になりなさい」
「「ハイ イヴ様」」

タチバナのブレインカプセルを胴体から外したイヴは和美と美和子に護られながら
跳弾による爆発が拡がるフロアを移動し脱出艇に乗り込んだ。

「逃げるっすか!! 友華と沙耶ッチを返せ!!」

イヴたちを追い走り出した奈々が放棄されたタチバナの胴体の横を通り過ぎようとしたとき
胴体が動き出し、六本の腕で奈々の体に抱きつくとそれっきり動かなくなった。

「な、何っすかこれ! 放せ!! 邪魔するなっす!!」
『フフフ… お前はこれと一緒にぺしゃんこになって消えてしまいなさい』

胴体に内蔵されたスピーカーから嬉しそうに話をするイヴの声が流れる。

「イヴ待て、逃がさないっす!!  友華、沙耶ッチ!!」

脱出艇が建物から飛び出すと、奈々に抱きついていた胴体が眩い閃光を発し
マンションは瓦礫の山と化した。


*.前メニュー 0.トップへ戻る #.次メニュー inserted by FC2 system