エデン 9

友華と沙耶香を捕獲し、ラボを脱出したイヴは
前線基地代わりに使用している病院に二人を運び込んでいた。

「イヴ様 お待ちしておりました」

細身のそれなりに歳を重ねた美女が自分の座っていた場所をイヴに開け渡す。

「イヴは急いでいます 準備はできていますか?」
「はい イヴ様のラボにご用意させて頂いております」

イヴが女が座っていた場所ではなく、専用エレベーターに向かって歩き出す。

「イヴ様 わたくしにも何かお手伝いを…」
「必要ありません お前は自分に与えられた仕事をしていなさい」
「は、はい… それとイヴ様 先日お願い致しました…」
「お前を獣人にすることですか」
「はい これまで以上にイヴ様の為に働きたいと…
  美しい躯を手に入れ、この身をエデンに捧げたいと…」
「確かにお前は猿にしては頭がいいです。 イヴの為によく働いてます。
  けど、イヴは何も言わず、イヴの言うことに素直に従うモノが大好きです」
「あっ…」

女は慌ててその場にひれ伏すと額を床にこすりつけた。

「申し訳ございません イヴ様
  二度とこのようなことは申しません。 どうか、どうかお許し下さいませ」
「まだ、お前を捨てたりしません。 黙ってイヴの言うことを聞いていれば
  ちゃんと望みは叶えてあげます…… あっ、そうです 忘れるところでした」

イヴは和美と美和子に先にラボに行くよう指示すると
ひれ伏したままの女を立たせ、応接セットに移動した。

「春奈 お前にしかできないお仕事です」
「は、はい イヴ様  何なりとお申し付け下さいませ」

春奈はソファーに腰掛けず、イヴの前にひれ伏していた。

「運び込んだガイアなんとかの沙耶香をこの病院に入院させなさい」
「ガイアフォースをこの病院に…ですか…」
「そうです。 今から瀬戸沙耶香をイヴのしもべに改造します。
  ある程度改造できたら、沙耶香をガイアなんとかに帰そうと思います。 それまで
   他の猿どもに怪しまれないようにするのが春奈の仕事です。 できますよね?」
「は、はい そのようなことでしたら、全てこの春奈にお任せ下さい」

顔を上げた春奈の顔は狂喜に歪んでいた。

山岸春奈。
彼女が出席していた医学会をイヴが襲撃した際
エデンの人を獣人に変える高い技術力と洗練された獣人の姿に関心を持っていた春奈は
自らエデンとイヴに忠節を誓い、父親が経営する病院をエデンの前線基地として
イヴに差し出すと、父親をはじめ、患者や患者の家族を獣人に改造していた。
そして、春奈自身も獣人となり、身も心もエデンとして生まれ変わることを望んでいた。




「ヒッ…ヒッ…イヒィィ…イヒッ…」

機器が埋め込まれた壁にGV瀬戸沙耶香は磔にされ
頭には青いフォースエンジンが取り付けられたヘルメットを被されている。
虚ろに見開かれた瞳で、だらしなく開いた口元から涎を垂らし、体をピクピク痙攣させていた。

「ウッ…クゥゥ… ここは……!? さ、沙耶香さん!」
「ウフッ… お前はこの猿が終わってからゆっくり改造してあげます」

沙耶香の隣に磔られている友華は自由の効かない体を動かし拘束から逃れようとしている。

「あなたがイヴですね 沙耶香さんに何を……
  まさか、沙耶香さんも美和子さんと同じように」
「正解ですゥ フォースエンジンの同調も終わって、沙耶香はエンジンの支配下にあります。
  いまは… 頭の中にエデンへの忠誠心を流し込んでいるみたいです」
「フォースエンジンが人を支配する? そんなバカなことが…」
「ウフッ…ウフフフフフフフ… 美和子」
「ハイ イヴ様」

イヴは不敵に微笑み、控えていた美和子を呼びつけた。

「美和子 イヴがあげたフォースエンジンはどう?」
「ハイ イヴ様 私をイヴ様のしもべに変えてくれた素晴らしいエンジンです」
「ウフフフ… ずっとイヴのことを許さない!! って吼えてた美和子も
  いまはフォースエンジンに支配され、エデンの、イヴの忠実なしもべになっています。
   と言っても、ここまで躾けるのに随分時間もかかりましたし
    まだ完全じゃないみたいですけどね」

― 完全じゃない? だったら… ―

「美和子さん しっかりして下さい
  美和子さんはエデンに操られているんです、負けないで!!」

美和子は無表情で友華を見つめる。

「ムフフフ・・・ それはムダです。 って言ってる間にもほら… フフフ…」

沙耶香がうわごとのように忠誠の言葉を呟きはじめた。

「ア…イ…イヤ…チガウ…ワタシハ…イエ……ハイ…エデンノ…タメニ…」
「エッ!? 沙耶香さん しっかりして、エデンに負けちゃだめ!!」
「ハイ… エデンノタメニ… エデンニシタガウ…シモベデス…」
「ダメよ、沙耶香起きて!!」

友華は大声で沙耶香の名前を叫び、目を覚まさせようとした。

「ムダムダですって エンジンは沙耶香の意識に直接命令していますから」
「ア…アァァァァ…  スベテハエデンノタメニ…」
「沙耶香さん? 沙耶香 沙耶香!!」

ボソボソと呟いていた沙耶香が大きな声をあげて、くったりと動かなくなった。

「すべて順調です  これで沙耶香はイヴのモノです。
  イヴはとっても気分がいいですゥ カズミ イヴを好きにしていいですよ」
「ハイ イヴ様  失礼致します」

どこからともなく現れた獣人和美がイヴの陰部に鼻を近づけ
匂いを嗅ぐとペロペロと舐めはじめた。

「クキュゥゥ…いきなり…です…  いい、いいです、カズミ」

信頼していた和美の堕落した姿を見ることができない友華は顔を背けた。





「ン…ンン… アッ……  頭がガンガンする… ここは…わたしはいったい…」
「沙耶香さん? 沙耶香さん大丈夫…なの?」
「えっ… VU…友華さん?」
「沙耶香さん、平気なの?」
「はい…イツゥ…… 頭がガンガンしますけど…大丈夫です  ここは…」
「エデンの前線基地みたい ホントに沙耶香さん、平気…なの?」
「えっ? ええ…どうしてそんなに…  そうだ、わたしあのイヴってエデンのしもべに」

固定されている手足に力を入れ脱出を試みていた沙耶香が友華を見やる。

「美和子さんのように、わたしたちを意のままに操るつもりみたい…」
「でも、わたし どうもないですよ」
「イヴはわたしたちにエデンへの忠誠心を植えつけると…
  何かされてたとき、沙耶香さんも自分はエデンのしもべだって…
   ホントに大丈夫? エデンと戦える?」
「もちろんですよ!! その為にもここから脱出しないと」

沙耶香と友華は手足を動かし、何とか拘束から抜け出そうとしていた。

「まったく! どの猿も同じことを… 逃げ出せるわけないでしょう」
「「イヴ!!」」
「沙耶香 お前はもうイヴ様と呼びなさい」

歯を食い縛り腕と足しに力を込めて、沙耶香が目の前に現れたイヴを睨む。

「誰が呼ぶものですか!! わたしはエデンに操られたりしない!!」
「ウフッ なんて言っても、お前はもうイヴのモノになっています。
  さてと、お前にエンジンを取り付けて病室に移さないと  タチバナ」
「わたしを病室に? なにを言ってるのよ !?」

新しい胴体を与えられたタチバナが制御盤を操作しはじめると
沙耶香を磔にしている壁が仰向けにスライドし、天井から人型に窪んだ
壁がゆっくりと沙耶香に覆い被さるように下降してきた。

「なにをするつもりよ!」
「眠っている新しいお前を起こしてあげます。 そっちの猿もよく見ておきなさい。
  イヴの可愛いしもべ 沙耶香が目を醒ます瞬間をね」
「わたしはしもべになんか! エデンに操られたり」
「沙耶香さん!!」

2枚の鋼鉄の壁が重なり沙耶香の言葉を奪うと
ほんの数秒、鈍い動作音を発して覆い被さった壁が元の位置へと戻り
手足の拘束が外れた沙耶香が上体を起こし台から足を下ろす。

「沙耶香…」

沙耶香の体は美和子と同じカラーリング
光沢のある黒と紫で彩られたスーツに覆われていたがデザインが少し異なっていた。
紫の網タイツ様のゼンタイスーツの上から、黒のハイレグカットのハイネックレオタードに
手首までのグローブと足首までのピンヒールブーツ様の仕様で
頭は美和子と同じ漆黒の大蛇が大きく口を開いている様をイメージさせる
目元が深紅のバイザーで覆われた顔の下半分が露出しているヘルメットが装着されていた。

沙耶香は目の前の敵イヴに戦いを挑むわけでもなく
友華の呼びかけに見向きもしないで、コツコツとヒールを鳴らしながら
イヴの前に移動すると美和子の時と同じように膝を折り、恭しく頭を下げた。

「さ、沙耶香…」
「わたしはイヴ様のしもべ、ゴーゴンフォース メデューサ 何なりとお申し付け下さい」
「沙耶香 どうして…」

フォーススーツを装着され別人のようになった沙耶香に愕然とする友華。

「ウフフフ… このフォースエンジンの支配を抗うことはできません。
  イヴが教えてあげた忠誠心を思い出して、ちゃんとイヴのしもべになります」

友華はイヴと一緒に現れた美和子とスーツを纏わされた沙耶香の
手首で青く輝いているフォースエンジンを交互に見やった。

「フォースエンジンの支配…… その青いフォースエンジンで美和子さんと沙耶香さんを…」
「ウフフフ… そうですけど
  沙耶香、スーツを解除してフォースエンジンをイヴに渡しなさい  美和子、お前もです」
「ハイ イヴ様」
「かしこまりました イヴ様」
「何のつもり…イヴ」
「ウフフフ…」

二人はイヴの命令に従順に従い、手首に嵌められた
青いフォースエンジンが輝いている金属製のリストバンドを外しイヴに手渡した。

「美和子さん!! 沙耶香さん!!  目を覚まして!!」

友華はフォースエンジンを外した二人の名前を必死に叫んだ。

「う…うぅぅ…… 友華…さん……わたし…」
「沙耶香!!」

友華の呼びかけに沙耶香は反応を見せたが、美和子は冷たく友華を見据えている。

「あ、頭が…痛い…… わたし…なにを… イ、イヴ…わたしに何を…
  ゆ、友華さん… いま…助けますから…」
「私のことはいい、自分が脱出することを考えなさい!」
「そんなこと… あ… 美和子さん…放して…放して下さい… 友華さんを…」

フラフラと頭を押えながら友華に近づく沙耶香を美和子が取り押さえた。

「フォースエンジンの支配を受けてもその期間が短いとこんな感じです。 けど…」

美和子に引き摺られるようにイヴの前に連れて来られた沙耶香の手首に
イヴがフォースエンジンの付いたリストバンドを取り付ける。

「やめて、エデンの… あ… なに…あぁぁ……
  ハイ…ワタシハイヴサマノシモベデス…」
「フフフ… 一度でもエンジンに支配されれば
  こうやってエンジンを身に着けさせるだけで、簡単にしもべに戻せます。
   そして、時間をかけてエンジンの躾を受けさせてやれば、美和子のように
    エンジンなしでも、イヴのしもべとして働くようになります。
     と言っても、美和子もまだ完全ではないみたいですけど…ウフフフフ…」
「なんてこと…」
「心配いりません お前ももうすぐ同じようになりますから。
  さぁ 沙耶香、用意してある病室でじっくりしもべとして躾けられなさい
   美和子 沙耶香を部屋に案内しなさい」
「ハイ イヴ様」
「かしこまりました イヴ様」

イヴから受け取ったリストバンドを手首に嵌めた美和子に誘われ
沙耶香はラボを立ち去った。

「沙耶香さん、行っちゃだめ! 目を覚まして!!  沙耶香!!」
「ムダです 沙耶香はもうイヴのしもべ。
  沙耶香にはいろいろやって欲しいことがありますから、その準備もしないと」
「イヴ!! 沙耶香に何をさせるつもりなの!!」
「ムフッ…ムフフフフフ… 教えてあげます。
  エンジンなしでもイヴのしもべとして働けるようになったら
   沙耶香をガイアなんとかに帰します」
「沙耶香を帰す? いったい何を企んでいるの!!」
「クフフフフフ… 和美からいろいろ話を聞いて ずっと思っていました」

ソファーに腰を下ろしたイヴが和美を呼び寄せた。

「フォーススーツを装着できる女の猿をイヴは全部手に入れました。
  いま考えれば、イヴを傷つけたあの無礼な猿を生け捕りにしておけば
   よかったと後悔しています。 ぺしゃんこにするより
    実験に使ったほうが苦しめることができました…残念です」

イヴは自分の前に座らせた和美の尻尾をしごき、陰湿に微笑む。

「イヴは和美のようなメードを他にも欲しいと思っています」
「ロイヤルフォースのメンバーをチーフと同じように獣人にするつもりね!
  沙耶香はその為にフォースに戻すのね!!  ま、まさか…」
「イヴは菊池亜沙美と藤堂ユリカをメードにすると決めました。
  それ以外のロイヤルなんとかは要りませんから
   そのときはお前たち、イヴのゴーゴンフォースの出番です」

尻尾をしごかれ背中を弓なりに反らした和美はイヴの話の邪魔にならないよう
声を殺して悦に浸っていた。

「イヴのメードになれて和美も幸せでしょう?」
「くふぁ…ハ…ハイ…イヴさま…」

更なる悦を求め、猫なで声で答える和美。

「チーフ…」
「おしゃべりはこれくらいにして  タチバナ、こいつもイヴのしもべに」
『ハイ イヴサマ』

― このままわたしはイヴに操られて他のメンバーを…
  そんなのイヤ エデンに操られて仲間を殺すくらいなら ―

友華はエデンの手に堕ちない、自分に残された最後の手段を実行に移そうとした。
だが、その行動はタチバナに見抜かれ、友華は口の中にゴム製のボールを押し込まれ
両端に付いていたフックを頭の後ろで引っ掛けられた。

「ン! アガァァ ムングゥムグ…  ンン!!  ンンンン!!!」
「タチバナ 何をしています?」
『ハイ イヴサマ コノオンナハ ジブンデ イノチヲタトウト シテイマシタ』
「へェ〜 みんなイヤイヤって言うだけでしたが、お前は自分で…
  友華、お前は面白い猿です。 イヴは友華が好きになりました ウフフフフ…
   美和子たち以上にイヴの為に働けるようにイヴが躾けてあげますね」
「ンン!!」




数時間後、黒と紫のフォーススーツを装着された友華がイヴの前に跪き、頭を下げていた。
装着されたフォーススーツの色彩とヘルメットのデザインは二人のモノと同じだったが
紫の網タイツ様のゼンタイスーツの上から黒いハーネスで体を拘束されたように
胸と陰部が辛うじて隠れており、肘と膝の下までのグローブとピンヒールブーツを
着けているようなデザインになっていた。

「気分はどう? 友華」
「ハイ イヴ様  とてもいい気持ちです」
「これからはイヴのゴーゴンフォースとして働けますね」
「ハイ イヴ様のご命令に従うことがわたし、エウリュアレの使命です」
「ウフフフ… いい子です…
  お前にもイヴのモノである印を付けてあげます。スーツを解除してこれに着替えなさい」
「ハイ イヴ様」

立ち上がった友華はゴーゴンスーツを解除するとリストバンドを外し、イヴから手渡された
レザーのキャットスーツ、肘と膝の下までのレザーグローブとブーツを身に着けた。

「う…うぅぅん… わたしは… イヴ…わたしはあなたのモノには…  あぁ…」
「ムダだって言ってるのに」

フォースエンジンを外した友華は自我を取り戻したが、レザーグローブの上から
リストバンドを装着され、イヴのしもべとしての意識を覚醒された。

「友華 これがなくてもイヴのしもべでいれるようになりなさいね
  さてと、イヴと同じお化粧をして、イヴの印を付けて…」
「ハイ イヴ様 イヴ様にご満足いただけるしもべになれるよう努力いたします」

直立不動の姿勢で大人しくしている友華の顔に自分と同じ黒のメイクを施し
美和子の額に描いたものと同じ黒地に金色の縦長の瞳を刻みつけた。

「これで友華はイヴのしもべ、イヴのモノです。
  友華はイヴの命令なしにイヴの傍を離れてはいけません。
   ずっとイヴの傍にいてイヴを護りなさい。  それと…
    みんな同じ呼び方で面白くないから 友華はイヴのことをご主人様と呼びなさい」
「はい、かしこまりました ご主人様」

友華はイヴの前に跪くと微笑み、イヴが出した手の甲に忠誠を誓う口付けをしていた。


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