エデン 11

「何やってるのよ豪太 だからそこにはこっちの値を代入して… だからこっちだって!」
「うるさいなぁ! 沙耶香ちょっと黙ってろよ!」
「あぁ!! せっかく教えてあげてるのにそう言う言い方するんだ」

いつもと変わらない風景、だが亜佐美の表情は曇っていた。
奈々の報告を聞いた藤堂ユリカが下した判断に亜佐美は合点がいかなかった。
明後日、合流する予定になっていた奈々のガイア編入が取り消されたうえ
沙耶香をゼウスに編入させるという指令が伝えられていた。

― 司令はいったい何を… ―

予想もしていなかったユリカの判断に亜佐美は疑問を抱き
じっとデスクの一点を見つめていたが、何気にその渦中の人である
沙耶香に視線を向けると自分を見ていた沙耶香と目が合った。
沙耶香は愛想良く微笑んでいたがその瞳は冷たい輝きを宿し
亜佐美が知っている沙耶香からは想像できるものではなかった。

― 沙耶香があんな冷たい眼を… ―

不安を感じた亜佐美の脳裏に奈々の言葉が浮かぶ。

〜 沙耶ッチも、もうあのイヴってエデンに操られているかもしれないっす…
   沙耶ッチがイヴに操られていれば、きっとあっしを狙ってくるっす 〜

― 司令は沙耶香を疑っている。 だから、沙耶香を監視しやすいゼウスに編入させた ―

どんな些細な事にも慎重に対応してきたユリカの判断を信じようと
亜佐美はユリカの意図を推測し自分を納得させようとしたが。

― 奈々が生きていることを沙耶香が知れば… 奈々を囮に… ―

〜 急に和美の様子がおかしくなったっす。
   休み明けの朝、急に和美は新しいスーツの調整があるって美和子を連れだしたっす。
    美和子はそれっきり帰って来ないで、それで次は友華の番だって…
     そしてあっしと沙耶ッチが持ってる情報出し合って… そのマンションに 〜

― そういえば、身分を偽り司令自ら沙耶香に会いに来た次の日から
   司令は体調を崩して三日程…… まさか藤堂司令がエデンの手に堕ちているとしたら… ―

「…さん  亜佐美さん   亜佐美さん!」
「エッ! な、なに、どうしたの沙耶香」

考えをめぐらせていた亜佐美はようやく沙耶香に呼ばれていることに気がついた。

「どうしたんですか? 怖い顔してじっとわたしを…」
「あ、ゴメンゴメン ちょっと新しいフォーメーションを考えていたから…
  で、なに? どうしたの沙耶香」
「はい 司令室からわたしに出頭命令が来ましたけど」
「そ、そう。 正式には明日からのはずなんだけど…」
「亜佐姉 明日からって何だよ」

亜佐美はGT平塚豪太とGU芳賀優をデスクの前に呼び

「みんなに話してなかったけど、沙耶香がゼウスに移ることになった」
「ハァ? なんで沙耶香がゼウスなんだよ!!」
「豪太ウルサイ  新しいヴィーナスが編成されるまでの暫定処置よ」
「じゃあ、オレと優の二人だけで戦えってか!!」
「だから、豪太ウルサイ  ホントはウチに新しいメンバーが来るはずだったけど
  そっちもダメになったから、しばらく二人だけになるわね」
「亜佐姉 そんなのありかよ!!」
「豪太 ゴメン…」
「それじゃ亜佐美さん わたしは司令本部に行っていいんですね」
「え、ええ…」
「お、おい、沙耶香… お前はどうもないのかよ」
「えっなにが? だって命令だから仕方ないじゃない」

沙耶香はガイアを離れることに未練のかけらも見せず答えた。

「いや…沙耶香、亜佐姉や俺たちと…」
「なに言ってるのよ豪太 一時的な暫定処置だし、いつだって会えるじゃない」
「ま…まぁ そうだけどさぁ…」
「クス… それじゃ亜佐美さん 行ってきます」
「ええ、気をつけてね」
「はい」

沙耶香が振り返りながら口元に浮かべた冷たい笑みに亜佐美は胸騒ぎをおぼえた。

― 沙耶香… ―

沙耶香が部屋を出て行くと亜佐美は厳しい表情で豪太と優を見やった。

「豪太、優 出撃よ」
「ど、どうしたんだよ亜佐姉 怖い顔してさ」
「出撃だ 早く準備しなさい」





それほど広くないロイヤルフォース司令室内はお香を焚いたように
薄いピンクの煙と甘い香りが漂っていた。

『こちらZI 敵は我々と同じフォーススーツを…ガガッ』
「ZI反応消滅… 藤堂司令… ゼウスフォース全滅です」

ヘッドセットを装着したオペレーターが意思の輝きが失せた眼で仲間の戦死を報告する。

「そう、ご苦労様 これであなたたちの仕事も終わりよ」

耳たぶに付いた白い毛玉に触れながら紅い眼をした藤堂ユリカが
ロイヤルフォース司令室のシートで微笑むと、体にまとわりついている
ピンクの色が濃くなり司令室を満たす。

「うぅ…」

オペレーターの女たちは小さく声をもらすと糸の切れた人形のように
操作パネルの上に前のめりに倒れ、白濁した眼を見開いたまま微動だにしなくなった。

「イヴ様 ゼウスフォースの処分が完了致しました。
  はい… はい… 仰せのままに」

充満していた煙はユリカの体の周囲から次第に薄れてゆき
すぐに煙も甘い香りも消えてなくなった。



亜佐美から奈々の報告を聞いた藤堂ユリカは
沙耶香に会うために身分を偽りガイアフォースの拠点に出向いた。
そしてその日の夜、忙しくしばらく戻っていなかった自宅に戻ることにしたユリカは途中
何者かに襲われ、山岸春奈の病院に運び込まれていた。


透明のドーム状のカバーで覆われた鋼鉄のベッドに裸で
大の字に拘束されている藤堂ユリカは苦痛にその美しい顔を歪めている。

「同じ人間の手で改造される気分はどうです 藤堂ユリカ」
「侵略者に魂を売った者を人とはウッ…」

ユリカは皮膚の一部を切り取られ、そこに白や黒、茶色といった毛皮を移植されていた。

「イヴはゼウスなんとが大嫌いです。 だからそれを動かしていたお前も大嫌いです。
  けどイヴはお前をちょっと変わったメードにしてみようと思います」
「あなたが…報告にあったイヴグゥ…」

頬の皮膚を切り裂かれたユリカが苦痛の声を漏らし顔を歪ませた。

「報告? お前は誰かにイヴのことを聞いているようです。
  誰だか気になりますが まぁいいです。 それは後でゆっくり聞くとして… クスクス…」

ユリカの体は右頬、手と足の甲、胸、下腹部のそれぞれに
少量の毛皮が移植されたところで止められた。

「お前の体にくっつけた毛皮は勝手に死んじゃった獣人の皮なんです。
  ゼウスなんとかがイヴの邪魔ばかりするから、イヴのイライラ解消に
   耳が長いよわっちい生き物の獣人を何体か作ってボコボコにしようと思ってました。
    でも面白い物が手に入って、そいつらをほったらかしにしていたら、み〜んな死んじゃって
      棄てようかと思いましたが、勿体無いのでそいつらの体の一部をお前の体にくっつけてみました」

イヴはユリカの改造を行っていた春奈から操作パネルを奪い
自分で操作をはじめると、機械アームでユリカの眼を大きく開き
紅いコンタクトレンズ様の物体を嫌がるユリカの右眼の中に入れた。

「な、なにをする 止めないか!」
「いつまでも生意気な口の利き方 イヴはお前が嫌いです!!」

イヴが操作パネルのボタンを押し込むとベッド表面が黄色に輝き
その輝きはドーム内面に反射してユリカの体を黄色い光で包み込んだ。

「エッ!? イギ、ギャアァァァ」

光に包まれるとすぐにユリカは首を振ってもがき苦しみ
その姿をイヴは嬉しそうに笑い見ていた。

「ウフフフ… お前を今までにない獣人に改造します。
  人と獣人をくっつけた合体?合成? とにかく醜い獣人ってことです。ククッ…」
「イギ…ギギ…グギギギギギギギ…」

ユリカの体に移植された毛皮がユリカの皮膚を侵食し
体の一部が毛皮に置き換わってゆく。

「うんうん、ぜんぜん問題なくくっついてます」

ニヤニヤしながらユリカを眺めていたイヴが
押し込んだボタンをもう一度押して黄色い光を停止するとユリカの体は
茶色の毛皮の手袋と靴下、黒の毛皮のブラとショーツを着けたようになり
その境目の皮膚の色が青黒く変色しているだけで、ほとんど人の姿を留めており
顔は右半分の頬から髪の生え際までが白い毛皮のマスクを着けたように変容し
右眼が紅い宝石のように輝いていた。

「ハァハァハァ…… わ、わたしの…かおが……」

ドームの内側に歪んで映っている自分の顔を見たユリカの体が震える。

「アハハッ ヘンな顔です 失敗獣人にした生き物は確か…」
「ウサギでございます イヴ様」

春奈が卑猥な笑みを浮かべながら答えた。

「そうですウサギです 弱そうな名前〜  タチバナ」
『ハイ イヴサマ ジュンビハ トトノッテオリマス』

白い毛玉の入ったケースを持ったタチバナがイヴのもとにやってくると
ドーム状のカバーを開いてユリカをカズミの時と同じように
おしりを上に向けて抱き抱えた。

「や…やめないか……これ以上わたしに…」
「うるさいです!」

イヴはユリカのお腹にパンチをいれて黙らせると
ケースの中にあった十センチ程の大きさの白い毛玉をグニグニと握り
植物の根のようなモノが生えているピンク色の棒をせり立たせた。

「こんなのじゃイヴを気持ちよくできませんから
  お前のメードとしての役割はイヴをすっきりさせることです」

嬉しそうに微笑みながらイヴは
黒い毛で覆われたユリカの陰部にピンク色の棒を突き刺した。

「ギャヒィィィ… 抜いて… そんなもの挿れなウッ ゲボッ」
「うるさい! うるさい! うるさい! うるさいです!!」

イヴはサンドバックを殴るかのように
タチバナに抱えられているユリカのお腹を殴り続けた。

「ゲフッ…ウグッ…ハウッ…アウッ…
  ヒッ……アッ…ハヒッ…ハァ…アァ…アヒッ…」

殴られて苦痛に顔を歪めていたユリカの反応に少しずつ変化が表れ
イヴに殴られ悶えているようにしか見えなくなっていた。

『イヴサマノ ゴメイレイドオリ ドウカゴ
  イタミヲ カイラクニ ヘンカンスルヨウ カイゾウシテオキマシタ』
「ムフフフ… ってことです。
  お前はイヴに苛められるとイイ気持ちになります」

話しながらもイヴの手は止まらず
しばらく嬉しそうにユリカをボコボコにしていた。

「ンンン〜 えい!!」
「ヤメ…モウヤメテ……キモチイイ…イイ……ギャヒィイイイ…」

最後にユリカの鳩尾に膝蹴りを入れるとイヴは満足したのかソファに腰を下ろした。
イヴの責めで絶頂をむかえさせられたユリカは体をピクピク震わせている。

「クゥゥ〜 気持ちいいです〜 上手く行きました。
  今からお前はイヴのメード、ユリカです。
   イヴのイライラを解消するためだけのメードです」
『イヴサマ トリツケタキカンガ セイジョウニ キノウシハジメタヨウデス』

タチバナがユリカの陰部にあった白い毛玉が
お尻の上あたりに移動していることを確認し、その毛玉を軽く握った。

「ハウゥゥゥ…」

毛玉を握られたユリカは小さく仰け反り
陰部から薄いピンクの煙のようなものを噴き出した。

『エインセンカラ ブンピツサレタ ブッシツヲサイシュ』
「ムフフフ… タチバナ、春奈で試してみなさい」
『ハイ イヴサマ』
「イ、イヴ様、何を… あふぁ…」

タチバナが採取した薄いピンクの煙を春奈に浴びせかけると
春奈の眼が虚ろになり、その場にへたり込んだ。

「ア…アァ……」
「ユリカ お前の体に新しい器官を作ってあげました。
  『会陰腺』って言うらしいですタチバナが言ってました。
   そこから他の猿どもを自由に操れる成分を分泌できるそうです。
    春奈にそれを試してみたのですが… 何か命令してみなさい」
「イ…イヤヨ…… …コンナ…カラダハ…イヤ……コロ…シテ…」
「…コロ…………ハイ…わかりました……」

タチバナの腕から開放されたユリカが洩らした言葉に
春奈が虚ろな眼で答えユリカを見やった。 そして
フラフラと立ち上がり近くの台からメスを手に取りユリカに近づく。

「殺す…藤堂ユリカ…殺す…」

ユリカの前に立ち止まった春奈は迷うことなくメスを振り下ろしたが
春奈が持っていたメスは振り上げたときにタチバナの機械アームが奪い取っていた。

「殺す…殺す…藤堂ユリカ…殺す…」

春奈はユリカに馬乗りになり
メスが握られていない拳をユリカの胸に振り下ろし続けた。

「うんうん いい感じです タチバナ、春奈が邪魔です」

タチバナは春奈に麻酔を打ち眠らせると邪魔にならない部屋の隅に運んだ。

「お前のそれはイヴに苛められて気持ちよくなると溜まります。
  あとは首輪を着ければ… あれ?  タチバナ、首輪がありません!!」
『ハイ クビワノカワリヲ ヨウイシテオキマシタ』
「それがこれですか?」

白いフワフワした毛のピアスと黒いカチューシャをイヴが取り上げた。

「ふぅ〜ん これが首輪の代わりですか… とりあえず
  お前にもイヴのモノになったことをしっかり覚えてもらいます」
「イヤ……ヤメナ…サイ…」
「すぐにそんな生意気な口の利き方もしなくなります」

イヴは嫌がるユリカに毛のピアスとカチューシャを取り付けた。

「ウッウゥゥゥゥ…ウグゥゥ……
  ワタシハ…ロイヤルフォース…シレイ……トウドウ…ユリカ…ダ……」

頭を抱えうずくまったままユリカは自分の名前を言い続けていた。

「あら? 頭から何か……ムフフ
  そういえば よわっちい生き物にはこれがありましたね」

白い毛のピアスを着けられたユリカの耳が無くなり
カチューシャから白い長い耳が現れるとユリカはゆっくりと起き上がった。

「…わたしはメード… イヴ様のメードにございます」

恥ずかしそうに体をモジモジさせながらじっとイヴを見つめる姿。
そこにロイヤルフォース司令藤堂ユリカの姿はなかった。


*.前メニュー 0.トップへ戻る #.次メニュー inserted by FC2 system