- 華麗なる転身 -
< 梓 編 >   < マイ 編 >   < 綾 編 >



< 梓 編 >

「梓ちゃん、今日の衣装なんだけど…」

グレーのパンツスーツに身を包んだ女性が黒いBOXを化粧台の上に置いた。

「は〜い マネージャー  今日はどんな衣装かな〜 ……ゲッ!!」

化粧台の上に置かれたBOXを開けた梓の顔と体が凍りつく。

「マ、マネージャー… こ、これって… エナ…メル…だよね…」
「ゴメン、梓ちゃん スポンサーがどうしてもそれを着けて欲しいって…
  CMの話が来てるスポンサーだから…  ねっ、我慢してその衣装を着けて」
「ゲゲッ… 私、エナメルとかラバーって 嫌いなのに…」

梓はBOXの中から白いエナメルのロンググローブを
汚い物をつかむかのように指先でつまみあげた。

「今日だけ我慢して ねっ、お願いします 梓ちゃん」

梓は深々と頭を下げるマネージャーの姿を横目に見やりながら

「う〜ん… ホントに嫌いなんだよ…」
「次からは上手く断るようにする 約束するわ」

マネージャーの言葉を疑うような眼差しでじっと見やり

「ハァ〜 ホントにこれっきりだよ…」
(イヤだなァ… エナメル、ラバー、レザーの類を着けると
  マテリアルにされたみたいでイヤなんだけど…)

アイドル大森梓には別の顔がある。
梓は2人の姉と共に、三姉妹戦士シルキーシスターズとして
悪の秘密結社『マテリアル』と戦っていた。

「エナメルのロンググローブにロングブーツ… ブラ… ミニスカート…」

BOXの中のアイテムを取り出して並べてゆく梓の声はどんどん沈んでゆく。

「!? な、なんだこりゃ… このきわどいエナメルショーツ…
  ギリギリ隠れるくらいだよ… これじゃ下に何も着けられない…」

脱力感で椅子に崩れ落ちた梓。

「ホンットにごめんなさい!! 事務所の命令に抗えなかったのよ…」
「……絶対… 今回だけだからね」
「うんうん 約束します!!」
「…約束…だからね…」

梓は着ている物を全て脱ぐと白いエナメルを身に着けた。

(あぁ…最悪… エナメルだけしか着けてない… これじゃ、エナメラーと同…? えっ!?)

ギシギシとエナメルの擦れる音をたてながら
エナメルを着けた自分の姿を鏡に映して見ていた梓の目に
梓の衣服を片付けているマネージャーの胸元の鈍い輝きが飛び込んできた。

「マ、マネージャー… もしかして、いま着けてる下着…」
「フフフフ… 気付かれました?」

これまで見せたこともない妖しい笑みを浮かべながら
マネージャーは立ち上がり、ブラウスの前を大きく開いて見せる。
すると胸は黒で覆われ、マイが着けているエナメルと同じ輝きを放っていた。

「ある方から頂いて、私も最初は抵抗ありましたけど
  着けてみるととっても気持ちいいんですよね  エナメル…」

話しながらスーツのポケットから取り出した黒のエナメルグローブを嵌めて
衣服を脱いだマネージャーの陰部は黒のエナメルショーツで覆われており
足元は膝下までのエナメルブーツを履いていた。

「マネージャー… ある方ってまさか…」
「フフフフ… 秘密結社『マテリアル』のエナメラー様ですよ
  梓ちゃ… いえ、シルキーアズサさん」

マネージャーの言葉を聞いた梓の瞳孔が開いてゆき、背筋が凍りつく。

「ククク… エナメル姿、なかなか似合ってるじゃないか シルキーアズサ」
「!! エ、エナメラー!! いつのまに…」

いつの間にか部屋の入り口に現れていたエナメラーが
ギシギシと深紅のエナメルを鳴らしながら梓に近づく。

「私のエナメルは気に入ってもらえたか?」
「ハッ! こんな悪趣味なもの気に入る人なんて… えっ?」

エナメルのグローブを外そうとした梓は体の自由が利かないことに気が付いた。

「か、体が…」
「エナメルモドキ23 褒美としてお前をエナメル戦闘員に昇格してやろう」
「あ、ありがとうございます エナメラー様」

梓のマネージャーは陶酔しきった眼で肘までのエナメルグローブを嵌めた右手を
胸の前に水平に添えて、マテリアルの敬礼の姿勢で答えた。

「さて、シルキーアズサ 私と一緒に来て貰おうか」
「いや、いやよ… 助けて、お姉ちゃん…」

エナメラーのマントで覆われた梓の体はエナメラーに誘われるがままに歩き出した。



「うぐぅ… やだ…マテリアルになりたくない… たすけて…マイ姉…」

無機質な銀色のベッドの上
グローブとブーツはそのままでブラとショーツを脱がされ
白のエナメルレオタードに着替えさせられた梓が拘束されずに寝かされている。

頭には口元だけが開いた白いエナメルの全頭マスクを被され
鼻と口を覆う酸素マスクとヘッドマウントディスプレイが装着されていた。

「クッ… 子供だと思っていたが、意外としぶといな…」

ベッドの脇で腕を組み、梓の洗脳を指揮しているエナメラー。

「くわぁぁ… 綾姉…はやく…はやくたすけに…来て…
  でないと…あたし…あたし…マテリアルに…されちゃう……はやくたすけにきて…」
「シルキーアヤとシルキーマイ…姉妹の強い絆か…… ククク…ならば…」
「怖いよ…マイ姉… あたしがあたしじゃなくなっちゃう…綾姉…たすけて…」
「遅くなってゴメン…助けに来たよ…梓」
「綾姉? マイ姉? 遅いよ、どうしてもっとはやく…」
「ゴメン…けどもう大丈夫だ… 安心して大きく深呼吸して気持ちを落ちつけるんだ」
「う…うん… ありがとう…綾姉…マイ姉…」
「いまだ、サブリミナルウェーブをレベル3から4に エナメル洗脳ガスの濃度を20%上げろ」

エナメラーは深呼吸をはじめた梓に濃度を増した洗脳ガスを吸わせ
ヘッドマウントディスプレイから送り込まれる新しい記憶と意志を梓に受け入れさせる。

「アヤ姉…マイ姉…怖い…怖いよ……違うあたしが…あたしの中に入ってくる…」
「怖くないよ…耳を澄ませてよく聞いてごらん…見えてくる光をよく見てごらんよ…」
「けど…けど…ア…姉…・・・マ…姉……」
「言うとおりにしてごらん…」
「う…うん…………わかりました……」

次第に梓の口調に変化が表れ、2人の姉妹の名前も口にしなくなった。

「何が聞こえてくる? 何が見えてくる?」
「ハイ…美しい声…深紅のエナメルを着けた美しい姿…
  そして…エナメルを着けた私の姿が見えます…」
「エナメルは好き? それと嫌い?」
「ずっと身に着けていたいくらい…大好きです」
「そう…そうなの… フフフフ…
  もう一度 よく聞いて…よく見てごらんなさい…『エナメリア』」

エナメラーはヘッドマウントディスプレイで送り込んだ新しい名前
新しい梓を目覚めさせるキーワード『エナメリア』を口にした。

「…エナ…メリア………エナメリ…ア……エナメリア…
  …ハ…ハイ……エナ…エナメラー……ねえ…さ…」

梓は少し戸惑いを見せたが新しい名前で呼ばれたことを否定せず
語りかけるエナメラーを姉として認識しはじめた。

「エナメリア……エナメラー…ねえ………エナメリア…エナメラーおねえ…」

梓は新しい自分の名前と新しい姉の名前を交互に繰り返し口ずさむ。

「ねぇ、エナメリア 何が聞こえる? 何が見えるの?」
「ハイ エナメラーお姉様 お姉様の美しい声が聞こえました。
  深紅のエナメルを身に着けたお姉様の美しい姿と
   お姉様と色違いのエナメルを着けた私の姿が見えました」
「そう もう大丈夫ね」

梓の傍らに腰掛けたエナメラーが梓の顔を覆っている
酸素マスクとヘッドマウントディスプレイ、そしてエナメルの全頭マスクを取り除いた。

「エナメリア 私のこと、好き? 嫌い?」
「エッ!? どうしてそんなことを…  クスッ…クスクス… ヘンなお姉様…」
「いいから… エナメリアは私のこと好き? 嫌い?」
「クスクス… 好きです 誰よりも大好きです エナメラーお姉様」

上体を起こした梓はエナメル特有の音をたてて傍らに腰掛けている
エナメラーの腕に抱きつき、嬉しそうに微笑んだ。

「エナメリア これからもマテリアルの一員として、私と一緒に働ける?」
「もちろんです、お姉様 エナメリアはずっと、お姉様と一緒です。
  喜んでマテリアルの一員として、これからもエナメラーお姉様に従います」

エナメラーは力強く答える梓の顔に
白いエナメルの口紅をひき、目元にシャドーとアイラインを入れた。

「これからも副官として私を補佐してね エナメリア」
「ハイ! エナメラーお姉様」

ベッドから飛び降りた梓はエナメルのロンググローブで覆われた
右手を胸の前に水平に添えて敬礼の姿勢で答えた。

「エナメリア ここは私室じゃないわ、その呼び方は私室だけにしなさい」
「ハイ!! エナメラー様」

シルキーアズサ、大森梓の記憶は
悪の秘密結社『マテリアル』幹部エナメラーの妹、エナメリアとして完全に作り変えられた。


新しいお姉様エナメラーに抱擁されるエナメリア



< マイ 編 >

「まさか単身で貴女が潜入してくるとは思わなかったわ シルキーマイ」

無機質な銀色のベッドに潜入した時のままの姿、黒のライダースーツ姿で
大森マイは大の字に手、足、腰、首を拘束されていた。

「私もまさかだったわ 梓がお前たちに洗脳されていたなんて…
  で、梓はどこ、どうしたの?」
「シルキーアズサ? あの娘ならいまごろ… フフフ…
  エナメラーはあの娘のことが、いたくお気に入りで
   エナメル洗脳を施して、自分の側近にしたみたいね。
    まぁ、私が貴女に興味を持っているのと同じ だけど…」
「エナメル洗脳?」
「ええ いまじゃあすっかり、エナメルの虜になってるみたいよ」

秘密結社『マテリアル』の幹部ラバールは
レザーのライダースーツで覆われたマイの体を舐めまわすように見やり

「貴女はレザーよりもラバーの方が似合うわよ きっと…」

紅く塗られた唇を舌先で舐めながらマイの耳元で囁く。

「ハハッ 冗談でしょう ラバーなんかを着ける趣味はないわ
  それより 梓に、妹に会わせて!!」
「会わせてと言われてもねェ…
  貴女の妹さんの所有者はエナメラーなのよね  で、貴女の所有者はこの私」
「私の所有者? 人を物扱いするなんて、マテリアルらしいわね」
「フフン… 私たちは貴女たちを一人ずつ、部下にすることにしたのよ
  気に入った娘をね… で、私は貴女を選んだ  あら?
   来た見たいよ、貴女の妹さん… フフフ…」

部屋の自動扉が開き、紅いエナメルのボンデージを着けた女と
真新しい真っ白なエナメルのボンデージを着けた、まだ少女と言う方が近い娘が入ってきた。

「あ、梓!! どうしたの梓! マテリアルに何をされたの!!」

自分の事を『梓』と呼ぶマイを白いシャドウとアイラインが施された眼で冷たく見据え

「お姉様 この女は何を言ってるのですか? 私のことを『梓』と呼ぶのですが」

梓はこれまでマイたちに見せていた優しい眼で
秘密結社『マテリアル』の幹部エナメラーを見やり、彼女のことを『姉』と呼んでいた。

「あ…梓… 私よ、マイ あなたの姉のマイよ!!」
「あなたがわたしのお姉様ですって… クスクス…面白いことを言うのね」
「ククク… 気にすることはない『エナメリア』 この女は洗脳中で混乱しているだけ。
  そろそろ大日本銀行襲撃に向かう エナメリア、準備を頼む」
「ハイ お姉様」

エナメリアは右手を胸の前に水平に添えるマテリアルの敬礼の姿勢で答えた。

「エナメリア 私室以外ではそう呼ぶなと命令したはずだ」
「アッ… 申し訳ございません、エナメラー様」
「これからは気をつけなさい エナメリア」

エナメラーは優しい眼でエナメリアを送り出すと
いつもの厳しい眼で拘束されているマイを見下ろした。

「ククク… 貴様の妹は素直で飲み込みが良かったぞ」
「エナメラー… よくも梓を!!」
「あの娘に施したエナメル洗脳は完璧のようね エナメラー」
「ククク… 思っていた以上にな。 エナメルを着せて洗脳しているあいだ
  ずっと『お姉ちゃん助けて』と叫び続けていたので それを利用させて貰った。
   このエナメラーを姉と思い込ませることで、簡単に新しい記憶を刷り込むことができた」
「何て酷いことを… 梓はまだ14歳なのよ!!」
「ククク… だからどうした? そんなことは直ぐに気にならなくなる
  ラバー洗脳で貴様はラバールの忠実なシモベになるだろうからな ククク…
   私が帰ってくる頃には貴様もマテリアルの一員になっているだろうな ハハハハ…」
「クッ… 誰がマテリアルなんかに!!」

エナメラーは高笑いでエナメルのマントをひるがえし部屋を出ていった。

「梓…」
「フフン… エナメラーの言うとおりよ
  これから貴女は私のラバー洗脳でマテリアルの一員に生まれ変わるの。
   そしてラバール隊副隊長として、マテリアルの為に働くようになるのよ」
「ラ、ラバール隊? 私が副隊長?」
「そうよ、貴女には私の片腕となって働いてもらわ フフン…」

ラバールは含みのある笑いを浮かべて
全身を白いラバーで覆われているラバール戦闘員に合図を送った。

「ふざけないで!! 誰があなたの部下になるものですか!!」
「フフ… 無駄な足掻きはしないでね… フフフ…」

嫌がるマイの頭に鼻と口元だけが開いている黒い全頭ラバーマスクが被された。

「止めなさい! ラバーなんて気持ち悪い物を私の体に着けないで!!」
「フフフ… すぐにラバーの良さが分かるから安心して…」

ラバール戦闘員が喉の奥まで届きそうなゴム管が付いた酸素マスクをマイに着け
ゴム管は気管奥深くまでしっかりと挿入された。

「ンッ…ンンッ…… ンンンッ!!」

ラバーの異臭と異物を喉の奥深くまで挿入されて嘔吐いているのか
マイの腹部と胸部が不自然な動きを見せていた。

「吐かないでね…  お前、洗脳ガスの注入を始めなさい」
「ンッ…ンッ…ンッ…」

ラバール戦闘員は右手を胸の前に水平に添えて敬礼の姿勢でラバールの命令に答えると
ボタンとスライド式のレバーを操作してガスの注入をはじめた。

「ングンンンンンンン!!」

無理やりガスを送り込まれてマイの胸は大きく膨らみ
拘束されている手足が硬直し、ガクガクと痙攣していた。

「苦しい? でもこうやって、強制的にガスを体の中に入れてあげれば
  無駄な抵抗が出来ないでしょう」
「ン…ンン……ン……」

体の痙攣は次第に鎮まり、膨らんでいた胸も元に戻るとゴム管が引き抜かれ
酸素マスクから送り込まれる洗脳ガスをマイは自発的に大きく吸い込んでいた。

「私の洗脳ガスはラバーの香りがするのよ 分かる?」
「…ハイ………いい香りです…」

マイはマスクでくぐもった声で従順に返事をする。

「そう言って貰えると嬉しいわ…  これから貴女にラバーを着せてあげる」
「…ラ…バー……」

言葉を漏らしたマイの口元に妖しい笑みがこぼれた。

「フフフ… いい反応よ」

ラバールがマイにヘッドマウントディスプレイを装着すると戦闘員を見やり

「サブリミナルウェーブを最高レベルでね」

敬礼の姿勢で命令に答えたラバール戦闘員が幾つかのスイッチやレバーを操作した。
ヘッドマウントディスプレイと繋がっている機械が鈍い動作音を発生し
マイの中に新しい記憶と意志を送り込む。

「アァッ…」

ピクリと体を震わせたマイにラバールが優しく囁きかける。

「大丈夫よ 何も怖くないわ ラバーを通して聞こえる音に耳を傾けなさい。
  ラバーを通して見える光をじっとみつめなさい… きっと新しい貴女が見えてくるから…」
「…ラバーを通して音を聞き…光をみつめる……そこに新しい私が……」

ラバールはマイの拘束を外すとライダースーツのファスナーを下ろして裸にし
舐めるように全身を見つめた。

「フフフ… 貴女のこの白い肌はこれからずっと このラバーに包み込まれるのよ…」

用意していた手と足の指先まで覆い隠す黒いラバーのキャットスーツを取り出すと
手馴れた手付きでマイの体をラバースーツで包み込んでゆく。

「フフフ… これで貴女は私の物…」

ツヤのない少し余裕のあるラバーで包み込まれたマイの体に白いガスが吹き付けられると
ツヤのなかった表面が鏡面のようにテラテラと輝き、着せやすいように開かれていた胸元の
合わせ目が溶かされたように融着され、つなぎ目がなくなるとラバースーツはマイの体の
ラインにピタリとフィットした。

「フフッ…フフフフフ… 私は紅で貴女は黒…」

色違いの同じラバースーツで覆われたマイの体を妖艶に潤んだ瞳でみつめるラバールが
漆黒のラバーで覆われた双丘の尖りを深紅の指でなぞった。

「ンン…ハァァ…ン…」

くぐもった喘ぎを漏らしたマイに

「どうしたの? ラバーで覆われた胸、弄られると気持ちいいの?」
「ン…クフン……ハイ…とっても気持ちいいです…」

抵抗する素振りを見せないマイにラバールは満足の笑みを浮かべた。
ラバールはマイの顔を覆っている酸素マスクとヘッドマウントディスプレイ
そして黒いラバーマスクを外すと、マイの顔に仕上げのメイクを施す。
目を閉じているマイの瞼を黒のシャドーで染め、唇に漆黒の輝きをひいた。

「ねぇ…おきて… 私の『ラバーナ』」

ピクリと指先を動かしたマイがゆっくりと目を開く。
上体を起こしてキュッキュッとラバースーツの擦れる音を立てながら
立ち上がったマイは妖艶な眼差しでラバールを見やった。
『私の『ラバーナ』』それは新しいマイを目覚めさせるキーワード。

「おはよう… ラバール」

優しく微笑んだマイはラバールを強く抱きしめ、漆黒の唇を深紅の唇に重ねた。






< 綾 編 >

「無様な姿だね」

ニヤリと陰湿に微笑むレザーラを綾は憤りの眼で睨んだ。

「事あるごとに私に楯突いてきたシルキーアヤが裸で、私の目の前に繋がれている」

声を上げずに陰湿に微笑むレザーラ。

「妹に裏切られた気分はどうだい? 憎いかい? それとも寂しいかい?」
「妹たちは私を裏切ったりしない!! あなたたちがマイと梓を洗脳して操っているだけでしょう!!
  2人は私を信じ、助けに来るのを待っている、私が2人を助ける!!」

綾はマイと梓はマテリアルに洗脳されたフリをしてチャンスを窺っているのだと
そう信じていた。これまで戦ってきた相手にそう簡単に心を奪われるハズがないと…。

「ホントに待っていると思っているのかい? あの2人を見ているとそうは思わないよ」

いつの間にか、ガラス張りの部屋の外にラバールとラバーナ
エナメラーとエナメリアがそれぞれ寄り添い、綾を指差し笑い者にしている姿があった。

「マイ! 梓!  よくも妹たちをあんな姿に… 許さない、絶対に許さない!!」

大の字をした磔台に革製のベルトで全身を固定されている綾がベルトを体に食い込ませ憤る。

― ピシッ! ―

体にベルトを食い込ませる綾の顔をレザーラの乗馬ムチがかすめた。

「体を傷つけることは許さないわ!
  お前の体を傷つけ、自由にできるのはこの私だけ!!」
「クッ… 傲慢ね、私を奴隷にでもしたつもり、笑わせないで!!」

レザーラは邪悪に顔を歪めて乗馬ムチで綾の顎を上げさせた。

「これからたっぷりと 私の奴隷として躾けてやるのさ」
「冗談でしょう 誰がお前の奴隷になど」

舌なめずりをしながら微笑むとレザーラは部屋の外の4人を呼び入れた。

「何よレザーラ! もう私たちに用は無いでしょう。 貴女の獲物は渡してあるんだから」

綾を捕らえて来たラバールがラバーナに寄り添い文句を言うと
レザーラはラバールに向かってムチをしならせ

「ラバール! 生意気な口をきくようになったね また躾けないといけないのかい!!」

ラバールは少し脅えた表情でラバーナの陰に隠れると腕を掴んだ。

「け、結構よ!! 不愉快だわ! ラバーナ、部屋に戻りましょう」
「私たちも失礼する。 行くぞ、エナメリア」
「待て! ラバーナ、エナメリア」

ラバールとエナメラーに誘われ立ち去ろうとする2人をレザーラが呼び止めた。

「何か御用でしょうか レザーラ様」

ラバールへの暴言と態度に敵愾心を剥き出しにしたラバーナが冷たくレザーラを見やる。

「いいねぇその眼…ゾクゾクするよ… お前も頂いたほうが良かったかもしれないね」

レザーラは舌なめずりをしながら舐めるようにラバーナを見やり

「この女がお前たちを自分の姉妹だと言ってるが本当かい?」

ラバーナは視線だけをエナメリアは面倒くさそうに綾を見る。

「フフッ… シルキーアヤと私が姉妹? 戯言を仰らないで下さい。
  私は生まれたときからマテリアルとして育てられてきました。
   お疑いでしてら、そのムチでこの女を打ち据えてみせますが」
「生意気なヤツだね!! ますます気に入ったよ、ラバーナ」

嫌らしい笑みを浮かべながら出されたムチを
ラバーナが掴もうとするとラバールが慌ててラバーナの手を掴み止めた。

「ダメよ、ラバーナ!!
  レザーラは貴女にそのムチを振る悦びを感じさせて、自分の虜にするつもりなのよ!!」
「チッ… もう少しだったのにねェ」

自分を陥れようとしたレザーラを冷ややかな眼で睨み、ラバールに優しい眼を向けた。

「大丈夫よ、ラバール 私はラバールを裏切ったりしない ずっと一緒よ…」

アヤはラバールを抱きしめると唇を重ねた。

「マ、マ…マイ……まさか…ホントに…」

不潔な事を死ぬほど嫌っていたマイが同性者と口付けをする。
フリにしても異常過ぎるマイの行動は綾の心を大きく揺さぶり言葉を奪う。

「レザーラ様 私の姉はエナメラーお姉様だけです。
  そのような輩が私の姉だなんて、絶対ありえません!!」

そう言い放つと梓はエナメラーの腕に抱きつき
自分やマイに見せていた微笑みとは比較にならない、最高の笑みを浮かべ微笑んでいた。

「あ…梓まで…… 梓! マイ! 私が分からないの 綾よ、思い出して!!
  私たちは3姉妹、シルキーシスターズよ 思い出して!! マイ! 梓!!」

が、ラバーナとエナメリアは迷惑そうな顔で

「まさかレザーラ様 私たちを陥れようとして、その女に私たちが自分の姉妹だと言わせているのでは」
「もしそうなら許せません!!」
「生意気な2人だね!  けど、どっちも欲しくなったよ」
「梓… マイ… ホントに洗脳されてしまったの」

マイと梓の変わり果てた姿は綾を失意の底に突き落とした。

「不愉快です レザーラ様、これで失礼させて頂きます  ラバール行きましょう」
「私もです  エナメラーお姉様 もう行きましょうよ」
「恐れを知らない…堪んないねぇ、ゾクゾクするよ!
  エナメラーとラバールから奪い取って、お前たちにレザーを着せたくなったよ!!」

レザーラは纏わりつくような陰湿な視線で部屋を出て行く2人を見つめていた。

「そ…そんなことないよね… ホントは洗脳なんか されて……ないよね…」

虚ろな瞳で2人の背中を見つめながら綾は力なく声を漏らした。

「なんだ意外と脆かったねぇ
  どうだった、信用していた妹たちの変わり果てた姿は
   1人は敵だった者を姉と呼び、もう1人は恋人のように…」

残忍に顔を歪ませて笑うレザーラが紅いレザーグローブを嵌めた手で綾の頬を撫でる。

「けどね 直ぐにお前も同じように、このレザーラ様の事しか見えなくなるんだよ」
「許さない… 絶対許さ!? なにを…止めアガァ…アガア…」

レザーラは綾の顔と頭、口を拘束するレザーベルトの拘束具を装着した。
綾は口に嵌められたリングで話すことも口を閉じることもできない。

「アガァ…アァガ……」

ちょうど眼の位置で目隠しするかのようにベルトが巻かれており
その隙間から未知の恐怖に怯える綾が眼をキョロキョロさせていた。

「どうした怖いのかい! さっきまでの威勢はどこにいったのさ!!」
「アァ…アガァ…アガ…」

微かに首を動かし、何かを訴えようとする綾をレザーラは嘲笑い

「あんなことぐらいでヘコまれちゃ、生意気なお前を選んだ意味がないんだよ!!」

綾の頬を平手で往復し、天井の装置に繋がっているチューブを引き摺り下ろした。

「アガ…アガガ…」
「サテーン総帥のご命令で、この洗脳ガスとサブリミナルウェーブでお前の妹たちは
  マテリアルの一員に生まれ変わったが 私はこんな物を使わないよ」

ニヤリと妖しく微笑んだレザーラはチューブをそのまま放置して
乗馬ムチで手の平を打ちながら綾の前に歩み寄った。

「アガァ…アガガァ…」
「ガスなんか使わなくても、忠実な奴隷に躾けてしまえばこっちのものってね!!」

ムチを振り下ろしたレザーラは綾の局部を執拗に責め立てた。

「アガァァ!!」

部屋中に綾のくぐもった悲鳴が響き、許される範囲で綾の体がガタガタと震える。

「まずは… 自分が誰の所有物なのかを教えてあげようかね!!」
「アガァ…アガァ…アガァ…アガァァァァァァァァ!!」

ムチを持ち直して振り続けるレザーラの手に黒い布が巻きつき動作を遮った。

「い、いいところなのに誰が私の邪魔を!?  サ、サ、サテ、サテーン総帥!!」

開け放たれた部屋の入り口に黒い布を体に巻いただけの女性が冷たい表情で佇み
その体に巻きつけた布の一部を伸ばして、レザーラの手に巻きつけていた。

「レザーラ 我が命に背きましたね」

感情のない冷たい口調でそれだけを告げると
レザーラの手に巻きついた布はグルグルと全身に巻きついてゆく。

「お、お待ち下さい サテーン総帥…私は命令に背くつムゴモゴ…ンン!…ンンン…」

床の上に転がされたレザーラは全身を黒い布で覆われ芋虫のようにモゾモゾと蠢いていた。

「シルキーアヤ  これも我に従う者に作り変えるのです」

サテーンの陰からエナメルやラバーとは異なる光沢があるスーツで全身を覆いつくされた影が現れ
ピクピク痙攣している綾に駆け寄ると、天井から垂れ下がったチューブを綾の口に嵌められたリングに
取り付け、その上から酸素マスクをかぶせた。 そしてヘッドマウントディスプレイを綾の頭に装着し
洗脳ガスの濃度とサブリミナルウェーブのレベルを調節して作動させた。

「シルキーアヤ  我を受け入れなさい。 我に従いなさい。
  我に従うことで、苦痛 恐怖 悲しみ 貴女を苦しめる全てから開放されるのです」

サテーンは部屋の入り口から一歩も動かず、眼だけを拘束されている綾に向けて語りかける。
すると小さく首を左右に振って抵抗していた綾の動きが止まり、ゆっくりと大きく呼吸をはじめた。

「もう 何も怖くありません
  聞こえてくる音に耳を傾けるのです  見えてくる新しい姿を見つめるのです」

ゆっくりと諭すように話すサテーンの言葉に綾はコクリと小さく頷いた。

「シルキーアヤ  我を受入れ  我に従えますか」

サテーンの言葉に綾は素直に頷く。

「よろしい  我が命に従う者としての名と姿を授けましょう」

サテーンの言葉が終わるとレザーラに巻きついていた布が解け
その布はスルスルと磔台ごと綾の体に巻きついていった。

「んあぁ… お、お止め下さい… お許し下さい… サテーン総帥…
  2度と… 2度と命令に背くような事は致しません… お許し下さい… サテーン総帥…」

布から開放され床の上でひれ伏しているレザーラの体は
身に着けていた紅いレザーのレオタード、ロンググローブ、ロングブーツが奪い去られ
変わりに黒いレザーベルトのハーネスが全身を締め付けていた。

「我が命に背きし者 裁きを待ちなさい」
「ンンン…ンン…ンン…」

レザーラの口に猿轡が噛まされ、その上から黒いレザーのマスクが顔を覆った。


黒い布に巻きつかれた綾は大人しく洗脳ガスを吸い続け、ときおり小さく頷いていた。

「我が命に従う者  目覚めなさい」

綾に巻きついていた布が解け
紅いレザーのレオタードにロングのグローブとブーツを纏った綾が磔台から降り立った。

「我が忠実なるシモベ『レザーラ』」

目を閉じて立っていた綾の紅いジャドーとアイラインが引かれた瞼がゆっくりと開かれる。

『我が忠実なるシモベ『レザーラ』』それが新しい綾を目覚めさせるキーワードだった。
サテーンの忠実なシモベ マテリアル幹部の1人レザーラとして目覚めた綾はコツコツと
ヒールを響かせ、サテーンの数歩手前まで近づくと、右手を胸の前に水平に添えてマテリアルの
敬礼の姿勢をとった後、片膝をついて跪き頭を垂れた。

「偉大なる総帥サテーン様  忠実なるシモベ レザーラに何なりとお申し付け下さいませ」
「よろしい  レザーラ そこに繋ぎし不遇の者 思いのままに」

綾は顔を伏せたまま、横目で床の上でもがいているレザーラだった者を見やり

「ありがとうございます サテーン総帥  この者、我が奴隷に躾けてご覧に入れます」

綾がそう答えると音もなくサテーンの気配は消えた。

立ち上がり妖艶に微笑みながら、綾はレザーグローブの嵌め口を抓んで
手にグローブを馴染ませると床に落ちていた乗馬ムチを拾い上げた。

「ウフフフ… サテーン総帥に楯突く愚か者 このレザーラの従順な奴隷に躾けてあげましょう。
  そうね まずは、お前のご主人様が誰なのか、その体に教えてあげるわ!!」

レザーラだった者の体に乗馬ムチを振り下ろした瞬間
その瞳はシルキーアヤのときとは異なる強い意志の輝きで満たされた。




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