波打ち際で戯れる栗栖と愛流の横をすり抜け、或徒はひとり沖の小島に向かって泳ぎはじめた。
その顔はバカンスを楽しんでいるといった感じではない。
― わかってる…わかってるけど… あたしだって… ―
激しさを増すS.S.B.との戦いに苦戦を強いられるX−fix。
そして、彼女たちがピンチになると姿を現す謎の戦士。
思うように力をコントロールできない歯痒さに、或徒のイライラは募るばかりだった。
「どうすれば もっと上手く力を使えるように…
このままじゃアイツらに勝てないんだ あたしは!!」
やり場の無い苛立ちを海面にぶつけ、激しく水面を叩きつけると
穏やかな波間に身をまかせて仰向けで漂い、顔に当たる太陽の日差しを手をかざして遮る。
「あいつは何者なんだ、栗栖や愛流は敵じゃないって言うけど… 信用できるもんか」
そうやってしばらく波間を漂っていた或徒は
グルグルと同じことを考え続ける頭を冷やすかのように海中に潜り
海の底まで潜ったところで力を抜いて自然に浮上する。
がしかし、或徒の体は海面までもう少しというところで止まり、ゆっくりと海底に戻りはじめた。
― !? ナッ!! ―
慌てて手足を動かそうとした或徒は
そのときはじめて体の自由が奪われていることに気がついた。
― な、なにが… ―
もがきながら体の自由を奪っている何かを確認しようと或徒はマスク越しに目を凝らした。
すると注意して見なければ分からないほど限りなく透明に近い
ロープ状の物体が或徒の体にグルグルと巻きついていた。
― これってS.S.Bの ―
ゴボッ…
或徒の口から残されていた空気が漏れ、気泡が海面に向かい上がってゆく。
― もう… いきが… ―
抵抗していた或徒の全身から力が抜けるのを待っていたかのように
彼女を拘束していた何かが或徒の鼻と口を酸素マスクのように覆い
微かに開いた或徒の口にその一部を挿入してエアーを送り込み
途切れかけた或徒の意識を繋ぎ止めた。
― 空気… 息ができる… なぜ…… まさかあたしを生け捕りに!! ―
或徒が体をよじり拘束から逃れようと抵抗を再開すると
何かは或徒の口に挿入した躯の一部をさらにねじ込み
その先端から少量の粘液を吐き出して或徒の喉に流し込んだ。
― ナニッ!? いまなにか飲まされた… ―
或徒の中に不安と恐怖が広がり、拘束から逃れようとする動きが激しさを増す。
― コ、コイツ… はな… な…なんだ… ―
だが、或徒の動きは鈍くなり、すぐにまったく抵抗しなくなった。
― ねむい… さっきのは…… ―
心地よい眠気が或徒を夢の世界に誘う。
そして、虚ろな瞳で抵抗しなくなった或徒の体を何かは優しく包み込む。
― あ…あたたかい… ―
微かな笑みを浮かべ、されるがままの或徒の瞼がゆっくりと閉じられた。
暫くして或徒は彼女が目指して泳いでいた小島に辿り着いていた。
浅瀬を歩く或徒の全身は透明の物体で覆われ、瞼は閉じられたままだった。
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