闇への転換 5


〜 とある採石場 〜


「ずいぶん待ちましたよ ジャスティーフォース」
「お前はビーストレーンΑ!! それにΒ、Γも!」

ジャスティースリーが発見したビーストアニマルを追ってきたジャスティーフォースは
山中にある採石場で三人のビーストレーンの待ち伏せを受けた。

「あれれ〜 ジャスティーツーがいるよ〜 なんで〜 どうして〜  キャハハハ…」

グレーと黒のトレーナースーツを着せられ頭を垂れている人物を無理やり立たせるように
Βと一緒に両脇から支えていたΓがジャスティーフォースをあざ笑う。

「どう言う意味かしら?
  ビーストを倒すことが私たちジャスティーフォースに与えられた使命。 この場に居て当然でしょう!!」
「ハッハハハ… 二週間前だったかな 廃工場でジャスティーツーを倒したような… それに…」

Βは立たせている人物の髪を掴み上を向かせ
衰弱し虚ろな眼をした柊サツキの顔をジャスティーフォースに見せつけた。

― サツキ!! ―
― サツキさん… ―

ジャスティーフォース全員が心の中で柊サツキの名前を呼ぶ。

「そのとき倒したジャスティーツーがこの女だったかな? クッハハハハハ…」
「やっぱり、お前たちの仕業だったのか!!」
「クスクス… サツキにはいろいろ話を聞かせてもらったわ。 聞き出すまでにずいぶん時間がかかったけど…」
「用が済んだこいつをすぐに始末してもよかったが、これまで散々邪魔をしてくれたお前たちに
  ちょっとお礼をしてやろうと思ったのさ… こいつを使ってな!!」
「キャハハハ… ねェねェ 早くはじめよ〜」
「クスクス… そうね」

Αがサツキに近づくと怯えた表情のサツキが声をあげた。

「ダ、ダメ…  みんな…私を殺して… じゃないと私… ングッ……ンフ…ン…ンン…」

ΑはΒとΓに支えられているサツキの顎を荒々しく掴み
抗うサツキの唇に自分の唇を重ねた。

「なにをする気だ!!」
「クスクス… 気になるの?  クスッ…クスクス…  サツキ、貴女はビースト様の何? 貴女の敵は?」
「い、いや… やめて… わたしを…変えないで…  仲間と……戦いたく…ない…」

サツキはガタガタと全身を震わせ目線を宙に彷徨わせた。

「サツキ」

Αに名前を呼ばれたサツキはビクッと体を強張らせて口を閉ざすと足元に目線を落とした。

「サツキ 顔を上げてわたしの眼を見なさい。 そして、わたしの言葉だけを聞きなさい」
「…ハ…ハイ…」

カチカチと奥歯を鳴らしながら怯えた表情のサツキが恐る恐るΑの眼をみる。

「何を怯えているの? わたしの言うことを聞いていれば何も怖くない。  そうでしょう?」
「…ハイ…」
「サツキさん!!」

どこか様子のおかしいサツキにジャスティーフォーが彼女の名前を叫ぶ。
その声にピクリと反応したサツキがジャスティーフォーに視線を向けようとした。

「サツキ わたしの声だけを聞きなさい。 わたしだけを見ていなさい」
「ハ…イ…」
「サツキ 貴女はビースト様の何? 貴女の敵は?」

Αの言葉を拒むかのようにサツキは泣きそうな顔で首を左右に振る。

「サツキ どうしたの? 言えば何も怖くなくなるのよ」

サツキの頬に手を添え、Αが優しく言葉をかける。

「貴女はビースト様の何? 貴女の敵は?」
「ハ…ハイ…」

怯えながらΑをみていたサツキの顔に微かに安堵の表情が浮かぶ。

「…わたしはビーストさまのシモベ… わたしの敵は… ジャスティーフォース…です」
「クスクス… よく言えたわ」

Αはサツキに優しく微笑みかけながら唇を重ねた。

「あ、ありがとうございます Αさま…」
「な、なに言ってるんだ、サツキさん!」

愕然とサツキを見つめることしかできないジャスティーフォースの面々。

「ハッハハハ… どうした、ジャスティーフォー 情けない声で ハハハハ…」
「うるさい、黙れ!!  お前らサツキさんに何をしたんだ!!」
「ご覧のとおり、柊サツキを洗脳してやったのさ  ハッハハハハ…」
「せ、洗脳だと…」
「クスクス… サツキを改造してわたしたちの仲間にしようと思ったけど
  意外と精神が脆く壊れそうだったから…… クスクス…これで柊サツキの洗脳はほぼ完了したわ。
   もう、わたしたちの命令しか聞き入れない忠実なシモベ そうよね」
「ハイ Αさま」

うっとりとした眼をΑに向けて答えるサツキ。

「お前ら!!」

ジャスティーフォーがレーザーガンを抜き
銃口をビーストレーンΑに向けると沈黙を守っていたジャスティーワンが射線に割り込んだ。

「ジャスティーフォー やめるんだ」
「ジャスティーワン 邪魔するなよ!!」
「落ち着けジャスティーフォー!! 待ち伏せされたこちらは分が悪い サツキを助けて退却する」

ジャスティーフォースは個々の役割を再確認し、ビーストレーンの策略に備えた。

「キャハハハ… 作戦会議は終わった〜」
「クスクス… Β」
「わかってるよ  サツキ、あたしのバットビーストを使いな」
「キャハハハ… あたしのコングビーストも貸したげる〜」
「ありがとうございます Βさま Γさま」
「クスクス… サツキ 貴女のトレーナーとしての働き、ゆっくり見せてもらうわ」
「ハイ Αさま」

グレーのゼンタイに黒のレオタード、グローブ、ブーツを着けたようなトレーナースーツ
を着せられているサツキが恍惚の表情でビーストレーンの言葉に従順に頷く。

「サツキをトレーナーにだと…」

サツキが着せられているトレーナースーツに疑問を抱いていたジャスティーワンが声をあげた。

「クスクス… これから柊サツキはバットビーストとコングビーストのトレーナーになるのよ」
「…まさか!! ビーストアニマルを操っているトレーナーは…」
「ハッハハハ… なんだ気がついてなかったのか。  トレーナーもアニマルと同じ元々は人間。
  あたしたちの仲間に出来なかった人間の女にトレーナーとしての力を与えて働かせていたのさ」
「キャハハハ… 気付いてないって、バッカじゃないの〜 キャハハハ…」
「クスクス… そんなに笑っちゃ失礼よ。  ビーストを倒すことだけがあの人たちの仕事なのよ…
  でも、ビーストになった仲間とどう戦うのか楽しみよね… クスッ…クスクス…」
「キャハ… 仲間同士で殺し合い〜」
「さて、バカの相手はこれぐらいにして…」

Βはトレーナーが着けているものと同じ黒いマスクを取り出した。

「サツキ このビーストアニマルたちのトレーナーとなり、我々の敵ジャスティーフォースを倒すんだ」
「ハイ お任せ下さい Βさま」

Βは直立不動の姿勢で立っているサツキに顔の上半分を覆う漆黒のマスクを被せた。

「ハハハハ… 似合うじゃないか」
「キャハハハ… トレーナーの出来上がり〜」
「クスクス… わたしのムチを貸してあげるわ」
『леиЯйё』

Αのムチを両手で丁寧に受け取ったサツキが発した言葉。
それは人としてのモノではなかった。
漆黒のマスクを着けられトレーナーとなった瞬間から
その人間はビーストにしか解らない言語で話すようになってしまう。
受け取ったムチを地面に振ったサツキの口元が邪悪に歪む。

『Хкф ушыж』

身構えているジャスティーフォースをサツキがムチで指しビーストの言葉を発すると
バットビーストとコングビーストが空と地上の二手からジャスティーフォースを攻撃しはじめた。



そして…

激しい戦闘の末、ジャスティーフォースは柊サツキの救出に成功した。
だがそれはビーストが企てた真の策略が実行に移されることを意味していたのだった。



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