エデン 6

「わたしは…」

まだ痛みが残る頭を小さく左右に振り、美和子は意識を取り戻した。

「アアッ!! アァァァ…  急に動くから…」

イヴが声をあげながら美和子の口元を指で擦り、再び彼女の唇を何かでなぞる。

「な、なにをしているの!!」
「なにって、イヴのモノにイヴが何をしようと問題ありません」
「ふざけないで!!  わたしは…… クスッ…」
「なにが可笑しいの?  タチバナ、こいつ壊れて」
「アハハハハ… わたしをエデンの兵士にするって言ってたけど、失敗だったみたいね。
  ご覧の通り、わたしはあなたたちエデンに屈していないわ」
「タチバナ!! これはどういうことですか、前と全然変わって……  なんてね   ウフフフ」
「エッ? な、なによ…」
「心配しなくても、お前はちゃんとエデンのために働く、イヴのしもべに生まれ変わっています」
「あなた何を言って… わたしはあなたに従わないって言ってるじゃない!」

まったく自覚のない美和子はイヴの余裕たっぷりな微笑みが怖くなり
首を動かし見える範囲内の自分の姿を確認した。

「どこも変わってない…」
「ウフフ… ちゃんと変わってます。 ほら」

イヴが美和子の顔を鏡に映し見せると美和子の顔にはイブと同じメイクが施され
その額にはイヴの眼を映したような黒地に金色の縦長の瞳が刻まれていた。

「ナッ!  どこまでわたしをバカにすれば!!」
「お前はイヴのモノ イヴの意のままに働く兵士となったのです。
  これはその印として付けてあげました」

イヴは美和子の額に刻み付けた眼を嬉しそうに指で触った。

「ふ、ふざけないで!! わたしは」
「イヴのモノではないと言いたいの?
  ウフフフフフフ… イヴはこの星の蛇って生き物が大好きです」
「訳のわからない事を言わないで!!」
「イヴはあの冷たい眼を見ているとゾクゾクしてきます。
  だから、イヴのシモベになるヴィーナスなんとかには
   それ、蛇をモデルにした新しい服を着てもらうと決めていました。
    お前にはそれを着てイヴのために存分に働いてもらいます。  ムフッ」
「誰がそんなもの!!」

美和子は拘束から逃れようと必死に体を捩る。

「いまはイヴを拒んでいるけど、お前の頭の中はもう…… ムフフフフ…」
「そんなこと有り得ない!! わたしはヴィーナスフォースよ、エデンを倒すまでは!!」
「ムフフ… エデンのフォーススーツを着れば、フォースエンジンがお前を変えてくれます」

ゆっくりと制御パネルの前に移動するイヴの姿を見やりながら美和子は激しく体を捩り続けた。

「えーっと、お前たちの新しい名前は、ご、ご、ご……  タチバナ」
『ゴーゴンフォース デス イヴサマ』
「そうそう これからお前はイヴのゴーゴンフォースになるのです」
「うるさい!! あなたには従わない。 エデンのために働くなんて絶対にイヤ!!」

イヴが制御パネルのスイッチに触れると美和子を拘束している壁が鈍い音とともに
仰向けに倒れるようにスライドし、上から人型の窪みと電子機器で埋め尽くされた
天井の一部がゆっくりと美和子の上に降りてくる。
凛々しく振舞っていた美和子の顔も恐怖に歪み
エデンと戦っていたVI高杉美和子の姿はそこには無かった。

「イ、イヤ、やめて、お願いやめてェ! キャアアアアアアアア…」

鋼鉄の壁は美和子の体と悲鳴を飲み込むと鈍く低いうなりをあげた。





ほんの数秒で美和子の上に覆い被さった壁は元の位置へと戻り
手足を拘束していた拘束具が鈍い音と共に外れると美和子がゆっくりと上体を起こす。
その体は周囲の壁で明滅している機器の明かりを妖しく反射し輝いていた。

それは白で統一され、肌の露出が全くなかったヴィーナスフォースのスーツとは異なり
首から下は光沢のある紫の網タイツ様のゼンタイスーツの上から、腕と太ももは中ほどまでを覆う
黒のグローブとブーツ、胸と陰部は黒のストラップレスブラとハイレグカットのショーツを
着けている様なデザインで、頭には漆黒の大蛇が大きく口を開いている様をイメージさせる
ヘルメット、目元は深紅のバイザーで覆われ、顔の下半分が露出されていた。


エデンのフォーススーツを装着された美和子が体を移動させて床に足を下ろすと
コツコツと戦闘には不向きな高いピンヒールを鳴らしながら、イヴの前に歩み寄り
静かに膝を折ると恭しく頭を下げた。

「さきほどまで、どうしてエデンを憎み、仇なしていたのか…
  もし、お許し頂けるのでしたら、エデンに忠誠を誓い、エデンのために働きたいと…」

美和子は少し戸惑いを感じさせる口調だったが
数分前なら殺されても口にすることはなかったであろう言葉を口にした。

「ムフフフ… いいですけど ホントにエデンに忠誠を誓えます?
  誓えるなら お前の名前とこれからは何のために誰の命令に従うのかイヴに言ってみなさい」
「…は、はい…… わたしは…」

美和子の体が何かを抗うように小さく震えだし

「わたしは… 防衛機構ロイヤルフォース所属……VI…」
「タ〜チ〜バ〜ナ〜 まだ完全じゃないみたいです!!」
『イヴサマ モンダイハアリマセン スグニ フグアイハ シュウセイサレマス』

イヴとタチバナが話をしていると美和子が装着しているヘルメットの
デザインと思われた金色の瞳が不気味に輝き

「あぁっ…………… ハイ ワタシハ エデンノシモベ… シモベハ メイレイニ シタガイマス」

美和子の体の震えが止まり、凛とした口調で答え直した。

「わたしは偉大なるエデン イヴ様の忠実なるしもべ  ゴーゴンフォース ステンノ
  この星、地球をエデンが支配する素晴らしい世界に変えるため、イヴ様のご命令に従います」
「そうです これからはイヴがお前たちゴーゴンフォースの隊長です」

ゆっくりとイヴを見上げた美和子の口元が微かにつり上がり

「はい イヴ様  何なりとお申し付け下さいませ」


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